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顧客と契約栽培をしたり、売買契約したりするうえで重要なポイントについて説明します。
1.責任範囲の明確化
まず、契約において最も重要なポイントの一つに、責任範囲の明確化があります。「ここまでは売り手の責任」、「ここからは買い手の責任」という切り分けです。
責任範囲として可能であれば明確化しておきたい内容としては、以下のものがあります。
□ 商品規格(品質):どの程度の品質を生産者として保証するか(価格との見合い)
□ 付加的作業等の範囲:納品時、出荷時にどこまでの作業を行うか
□ 納期:納期の許容幅、間に合わない時の対応、天候リスクへの対応を含む。
□ 価格(送料・消費税):市場価格の変動に対する対応などを含む。
2.リスク負担を考える
次に、契約においては、自社(生産者)と取引先(加工事業者等)がそれぞれ、どの程度のリスクを取ることになるのかを考えることが重要です。特に農業は天候や病害虫などのリスクが高い産業であるため、契約におけるリスク負担をしっかりと考えることが重要です。
基本的にリスクを取る方がリターンを得られるハイリスク・ハイリターン、ローリスク・ローリターンの契約とすることが一般的です。
実際に、契約栽培においては、契約方法によってリスクの所在が異なります。そのため、リスクを踏まえた売買価格で合意する必要があります。つまり、生産者がハイリスクを負う場合には、生産者にとってハイリターン可能な設定にしなければなりません。
面積契約の場合
面積契約の場合、天候等による不作が発生した場合でも、取引先の支払金額(生産者の収入)は同一であるため、天候リスク等は取引先が負担することになります。
しかし、どんなに単収が増えても生産者の収入は増加しません(生産者にとってローリスク・ローリターン)。
生産者の収入は安定するものの、生産者側の栽培技術や圃場管理レベルの向上などによる収入増が見込みにくいという特徴があります。
重量契約の場合
重量契約の場合、天候等による不作が発生した場合、納入可能な重量が減少するため、天候リスク等は生産者が負担することになります。
重量契約は、面積契約と比べて、生産者側が負うリスクは大きいですものの、生産者側の栽培技術や圃場管理レベルの向上などによって収入増が見込めます(生産者にとってハイリスク・ハイリターン)。
面積契約と重量契約の違い
重量契約と面積契約の大きな差異は、リスクの所在に起因します。重量契約の場合は生産者のリスクが大きく、面積契約の場合は取引先のリスクが大きくなります。
そのため、重量契約の場合、生産者側の技術向上等が収入増加につながりやすく、逆に、面積契約の場合、生産者側の技術向上により単収が増加したとしても収入の向上にはつながりません。
つまり、生産者の目線に立つと、重量契約はハイリスク・ハイリターンの契約であり、面積契約はローリスク・ローリターンな契約であると言えます。
3.リスク分散の視点
単純に、売った・買ったではなく、「共同事業」のような高度な連携を取引先とすることができれば、長期的な関係を構築することができます。しかし、こうした「高度連携」は経営の安定化、マーケットインを進めていく上で有効な手段である一方、収入一社依存になりがちです。
収入一社依存の状態で、何らかの理由で、その一社との「高度連携」がなくなってしまうと、収入が激減するといった事態が想定されますので、そういったリスクを勘案して、取引を組み立てる必要があります。
農業経営のリスク分散の視点では、一口に契約栽培(契約取引)といっても、「面積契約」、「重量契約」、「高度連携」など契約内容別にバランスの取れたポートフォリオを組むことが望まれます。
また、リスク分散の視点では、契約栽培に加えて、市場出荷やBtoCにも取り組むなど、取引を多角化することによって、より安全な経営に近づきます。
「重量契約」、「面積契約」といった売買契約において、取引先(加工事業者等)と農業者が長期的な関係を構築していくためのポイントとして以下の3点が考えられます。
□ 農業者が重量契約、面積契約のメリット・デメリットを的確に理解し、取引先と対等な立場で契約内容の交渉や調整を行い、契約書を締結すること
□ 重量契約、面積契約におけるデメリットを補う契約内容を検討すること
(例えば、重量契約であっても、最低買取数量を明記した契約にすることや、天候リスクに対する一定の保障を取引先が行う契約にすることや、面積契約であっても単収が上がった場合、契約金額を上げる特約を付加することなどが考えられます)
□ 取引先に複数の契約内容のパターンを用意してもらい、農業者が自身でそれを選択できるようにすること
(例えば、重量契約にするか、面積契約にするかを農業者が選んで選択できる仕組みにするなど)
当該コンテンツは、公益財団法人 流通経済研究所 農業・地域振興研究開発室 折笠室長の分析に基づき作成されています。