更新日
1.輸出のマーケティングの考え方
輸出のマーケティングというと、自治体などの政策では「輸出向けの新商品の開発」があげられます。では、輸出向けの新しい商品開発は、輸出を実現するにあたって必ず必要なのでしょうか。
もちろん、顧客のニーズに合わせた商品開発が理想ですが、コストを最小限に抑える意味では、現在ある商品を輸出することを考える方が効率的です。パッケージや表示など、簡単な変更のみで輸出を実現できることが理想といえます。
そのため、輸出のマーケティングを検討する上では、まず、自社の商品や産物の適合性の高い市場(国)への参入を考えることが重要です。つまり、経済状況や規制環境から参入しやすい市場(国)への参入を検討するということです。
2.自分の商品の価値を見直す
機能的な価値・意味的な価値
商品には、大きく2つの価値があります。それは、機能的な価値と意味的な価値です。
機能的な価値とは、商品そのものが持つ、機能や効能、性能に基づいた価値であり、客観的に評価することができ、多くの場合、数字で表現できるものです。
例)「緑茶カテキン100mg含有」
意味的な価値とは、個別の顧客の中で位置づけられる価値であり、顧客によって価値が異なるため、客観的に価値を測定することは難しいものです。端的に言えば、その顧客にとって、どういったメリットがあるのか、そのメリットが意味的な価値となります。
例)「カテキンが多いとダイエットにつながる」「抗酸化作用でキレイを保てる」
顧客に合わせた意味的な価値の訴求
ここで重要なポイントは、顧客は意味的な価値を評価して、商品を購入するということです。バイヤーとの交渉などでは、意味的な価値をPRし、その意味的な価値の理由付けとして、機能的価値をアピールすることが効果的です。
例えば、ある「トマト」の機能的価値と意味的価値を考えてみましょう。
機能的な価値として、生産の平準化と選果がしっかりしており、出荷において「大きさ・形がそろっている」ということは機能的な価値です。
それに対し、大きさ・形がそろっているから「パック詰めの際に重さを量る必要が無い」というのは、意味的な価値となります。
この意味的な価値は、顧客のメリットであるため、顧客によって異なる点に注意が必要です。飲食店と小売店では、同じ機能的価値でも、そこから顧客の得られるメリットが異なると言えます。顧客に合わせた意味的な価値を訴求しなければいけないのです。
したがって、輸出のマーケティングにおいては、マーケティングで顧客のニーズと商品のマッチングを行うことが求められます。
商品には多くの機能的な価値がありますが、それだけでは売れないのです(良いモノであるだけでは売れない)。そのため、顧客のニーズを把握し、それに合わせた商品訴求(=意味的な価値の訴求)が重要となります。
3.マーケティング戦略
マーケティングの基本として、まずはマーケティング戦略の立案が重要です。マーケティング戦略とは、効果的に消費者にアプローチするためのマーケティング戦略の基本となる「Segmentation・Targeting・Positioning」(STP)を検討し、自社が誰に対してどのような価値を提供するのかを明確にすることです(下表)。
セグメンテーション(市場細分化)
ここでの、市場細分化(Segmentation)とは消費者は異質的であるという認識の下に、何らかの意味で同質的なセグメント/市場セグメントに顧客を分割する考え方です。
本当は1人1人のニーズに向き合いたいところですが、実際に1人1人に応えていくことは難しいため、同じようなニーズを持つグループに顧客を分けて、最大公約数を狙うのです。
意味のある市場細分化(セグメンテーション)を実施するためには、顧客の切り口が重要となります。この切り口のことをセグメンテーション変数といいますが、代表的なものとしては以下の4点があります。
① 地理的変数:地方、都市規模、人口密度、昼夜間人口比率、気候、文化 等
② 人口動態変数:年齢、性別、家族構成、ライフステージ、職業 等
③ 心理的変数:ライフスタイル、パーソナリティ 等
④ 行動・態度変数:購買経験、購買頻度、ロイヤルティ、製品に対する態度 等
どのような切り口でも正解というものは存在しません。顧客の購買に対して、最も効果的な切り口を考え、実施することが重要です。
ターゲティング、ポジショニング
セグメンテーションを実施したのちは、自社が対象とするセグメントを選択します(ターゲティング)。
そのうえで、ターゲットに合わせたポジショニングを検討します。ポジショニングとは、ターゲットの消費者に自社製品のユニークさを認識してもらうマーケティングのコンセプトを開発する活動です。他の競合商品との立ち位置の違い(ポジションの違い)を明確にするものであり、競合差別化にほかなりません。
4.マーケティング戦術
マーケティングの戦略(STP)を決めたのちは、その戦略を具現化するためのマーケティング戦術を検討します。これは、ターゲット市場においてマーケティング目標を達成するための手段である「Product・Place・Price・Promotion」(4P)を決定することです。なお、この4つのPの組み合わせのことをマーケティング・ミックスと呼びます。
マーケティング戦術を検討する際に重要なポイントは、4Pのそれぞれの施策をマーケティング戦略(STP) や、訴求するべき意味的価値の内容から導出するということです。
意外と戦略の検討なしに、いきなり戦術レベルの検討をしてしまうことは珍しくありません(香港で高く売ろうといったようなもの)。
しかし、戦略なき戦術は失敗のもとです。しっかりとターゲットを決め(ST)、差別化のポイントを明確化(P)したうえで戦術の検討を進めましょう(下表)。
当該コンテンツは、公益財団法人 流通経済研究所 農業・地域振興研究開発室 折笠室長の分析に基づき作成されています。