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1.マーケット・インとは?
プロダクト・アウトは、「はじめに商品ありき」の考え方であり、作ったモノを売るという発想です。それに対し、マーケット・インとは、「はじめに顧客ありき」の考え方であり、顧客起点で何が売れるのかを考え、売れるものを作って売る、という発想です。
プロダクト・アウト
プロダクト・アウトは、「商品を作ってから売る」という商品ありきの考え方であり、生産者起点の発想です。
プロダクト・アウトは一般的に売り手の発想を起点としてしまうがために、売り手の独りよがりになりやすい欠点があります。
プロダクト・アウトで農業を行う場合、鮮度があることがリスクになってしまいます。米などストックできるものを除いて、生産後、貯蔵できないため、速やかに出荷しなければなりません。そうしないと品質が低下してしまい、最終的には腐敗してしまうからです。
そういったリスクがあるなかで、プロダクト・アウト型の生産・販売をすると、腐敗による廃棄を避けるための言わば「投げ売り」による販売価格下落を招きやすくなります。そもそも需要を考えなければ、売れない商品を作ってしまうことにもなりかねません。
マーケット・イン
それに対して、マーケット・インは、顧客や生活者のニーズを起点とする考え方です。
顧客の「欲しい」商品を生産することで売れる商品を生産するため、確実に販売することができます。受注生産などは、マーケット・インの典型であると言えます。
顧客の欲しい商品を注文を受けて生産するため、確実に販売することができ、余って価格が下落する、といったことが発生しません。
マーケット・インを考える分かりやすい例としては、パソコンがあげられます。パソコンは以前はプロダクト・アウト型で、メーカーが自分で仕様・スペックを決めて商品を作り、販売してきました。
しかし、DELLなどは、「そんなに高機能はいらないから、安いものが欲しい」、「どれだけコストがかかっても、スペックの高いものが欲しい」といった顧客側のニーズに合わせるべく、WEB上で自分好みのスペックにパソコンをカスタマイズできるようにし、顧客ごとのニーズに合わせて商品を受注、販売するマーケット・インの要素を取り入れた販売にシフトし、成功しました。今では、多くのパソコンメーカーがカスタイマイズ販売になっています。
農業でも、顧客の求めるニーズに合わせた生産を行うことで安定的に販売することが可能になると考えられます。
例えば、加工用に求められるサイズ、時期などをとらえ、事前に加工業者と契約を行ったうえで生産すれば、確実に売り切ることができるようになります。小売向けに、今の食べ方を考えて消費者に支持される品目・品種を選定することも、立派なマーケット・インであると言えます。
2.農業では完全なマーケット・インは難しい
しかし、農業は適地適作が基本です。例えば、現在いくらお茶よりもコーヒーの方が人気だからといって、茶畑をコーヒー農園にすることは、気候的に困難ですし、できたとしても収量があがらなかったり、もっと栽培に適した産地に食味で劣ることになります。
そのため、実際には農業におけるマーケット・インは、適地適作というプロダクト・アウトを前提としたマーケット・インということになります。作る品目などは土地や気候の制約を受け、プロダクト・アウトになるものの、品種や時期、栽培方法、訴求方法などで顧客のニーズに商品を合わせていくことになります。
3.ニーズの本質を探ったマーケット・インが必要
では、ここでいう顧客のニーズとは何でしょうか?
マーケティングの世界で有名な話として、顧客は「ドリル」が欲しいから、ドリルを購入するのだろうか?という問答があります。この答えは、そうではなく、顧客は「穴」が欲しいから、ドリルを購入するのだ、というものです。
ドリルへのニーズは表面的なものであり、本当のニーズは穴である、というものです。これは、ニーズをとらえるうえで最も重要な考え方と言えます。
例えば、なぜ、人はビデオカメラを買うのか?ビデオカメラが欲しい人はいるか?を考えてみましょう。
おそらくビデオカメラそのものにニーズは無いはずです。ビデオカメラを購入する顧客の本当のニーズは「思い出を記録に残す」ことであり、その顧客にとって一番の価値はビデオカメラではなく、それで撮影した映像にあるはずです。
農業も同様です。顧客視点で「どんな価値」を提供するのか、顧客が求めている「価値」はどんなものなのかを考え、本当のニーズを満たす商品を生産、販売していく必要があります。
例えば、同じ「いちご」を生産するにしても、消費者やバイヤーの視点に立ち、どういったシーンで、どういった使い方をされるものなのかを考え、それに合わせた生産や品種選定を行うことが重要です。その結果として、ケーキ用と贈答用で生産方法や品種、パッケージ等が異なってくるのです。
つまり、ここで言っている本当のニーズは、顧客が「欲しい」と思う理由であり、その理由こそがマーケット・インで考えるべきニーズなのです。顧客は、商品そのものではなく、そこから得られる価値を求めているのです。その価値をとらえた生産こそが真のマーケット・インと言えます。
マーケット・インを考えるうえでのポイントとして、「買う・食べる」の5W1Hを意識することがあげられます。悩んだときは、以下の5W1Hを考えてみることを推奨します。
① WHO(誰が)
誰が買うのか、誰が食べるのか?
② WHEN(いつ)
いつ食べるのか、どういったタイミングで食べるのか?
③ WHERE(どこで)
どこで買うのか、どこで食べるのか?
④ WHAT(何を)
顧客はどんな農産物、商品を求めているのか?
⑤ WHY(なぜ)
なぜ買うのか、なぜそれを食べるのか?
⑥ HOW(どうやって)
調理法は何か? どうやって食べるのか?
当該コンテンツは、公益財団法人 流通経済研究所 農業・地域振興研究開発室 折笠室長の分析に基づき作成されています。