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1.はじめに
(1) 観光農園の経営的特徴
観光農園とは、観光客やオーナー制度の会員を対象に、農作物の収穫体験や観賞等のサービスの提供、農作物の直売などを行うために整備された農園のことです。
観光農園の経営的特徴は、余暇で農村を訪れる人々に、接客・収穫体験等のサービスを提供し、また生産した農産物を販売したりして所得や雇用の増加を期待して展開される観光農業経営※というところにあります。
※ 観光農業(農業生産関連事業)には、主な業態として、観光農園の他に、農産物の加工、農産物直売、貸農園・体験農園、農家民宿、農家レストラン等があります。
(2) 観光農園のタイプ
観光農園のタイプには、次のようなものがあります。
● 収穫体験が目的の収穫体験型(果樹のもぎ取り園、イチゴ狩り、芋掘り、花摘み等)
● 植物などの観賞、見学が目的の場の提供型(観光梅園、観光花き等)
● 複合型(様々な農作物の収穫・観賞体験に加え、多様な農業・農村体験(農産加工体験等)を提供する目的で、周年開園されるもの。)
● オーナー制度(果樹や野菜などでオーナーを募集し、収穫時に一定の生産物を提供する仕組み)
(3) 観光農園の歩み
観光農園の本格的展開は、1960年代後半のもぎ採り園が始まりとみられます。1970年代に入ると、自然、農業体験に対する関心の高まりから、芋堀りやイチゴ狩りなどの観光農園が増加しました。
その後、オーナー制度を導入した観光農園、次に旅行会社と連携した大規模観光農園が登場しました。
更に、交通インフラ網の整備の進展や「モノ」から「コト」重視の消費者意識の変化もあり、最近では、複合型観光農園が増加してきています。
2.都市農村交流の農業政策上の位置づけ
グリーンツーリズム(農山漁村における一時滞在型の余暇活動)等都市と農村との交流などが、農村の振興施策の一環として位置付けられたのは、1999年の食料・農業・農村基本法の制定と翌年制定された食料・農業・農村基本計画によります。同計画でグリーンツーリズムの推進が明記されました。
その後、都市農村交流が農山漁村活性化のための手法として着目されるようになり、2007年には農山漁村活性化法が制定されました。
これを受け、都市農村交流を施設整備及びソフト活動両面から支援するための交付金※の支給が開始されました。
※ 現在支給されている交付金として、農山漁村振興交付金があります。同交付金は観光・教育等と連携した都市と農村の交流の取組み(施設整備・地域活動)を支援するものです。
また、2011年には、いわゆる6次産業化法が施行され、同法の認定を受けることで、日本政策金融公庫による無利子資金の償還期限等の延長、低利の短期運転資金の貸付け等の支援措置が受けられるようになりました。
このほか、特に観光と結びつけた取組を効果的に推進する必要上、農水省構造改善局と観光庁との間で「農観連携協定」が締結されています。
3.観光農園開設・運営面の留意点
観光農園は、一般農業経営とは異なるサービス業の側面があり、それに付随する経営的リスクを負うことから、その開園・運営に当たってはしっかりした準備・対応が必要です。
(1) 適切な事業計画の作成
事業計画は、農園の管理・運営等の基本であり、適切な設備投資や健全な事業発展を図る上でも重要となります。
その作成に当たっては、先ず、観光農園の開設目的、サービス内容(体験メニューの種類等)、施設規模等の全体像を描き、その上で、栽培、施設等整備、経営管理等の各部門別の計画を作成します。
事業計画は、採算性を検討し、目標期限を明示し、数字に落とし込む必要があります。
(2) トイレ、直売所等の施設整備に係る農地法規制等の事前確認
開園に当たっては、来訪客の利用サービスとしてトイレ、駐車場等の整備が必要です。また、直売所の併設も検討課題に上るかもしれません。将来的には、各種の体験施設等を整備することも予想されます。
これらの施設・建物の農地への設置については、農地法規制との関連で注意が必要です。
農作物の栽培のために必要不可欠の機材(加温設備等)は、農地法上、農地と一体扱いされますが、それ以外の施設・建物等の設置は農地転用と想定されます。
この場合、農地転用の箇所が、農振農用地区域内農地、集団的優良農地等である場合には、原則許可できないとされています。
農地転用不許可の例外となるのは、農振農用地区域内農地では、農用地利用計画において指定された農業用施設用地の用途に供する場合、集団的優良農地等にあっては、農業用施設、農畜産物販売施設等を設置する場合です(後述「農地転用不許可の例外」参照)。
トイレ、駐車場、直売所等は、個別的に検討し、農業用施設等に該当すれば、例外許可される可能性があります(農業用施設用地の指定を行う農用地利用計画の事前変更手続きが必要となる場合があります)。
農地の法規制は複雑であり、個別ごとの検討が必要なので、市町村(農業委員会)等の窓口で事前に相談し、農地法規制等の内容や手続きを確認しておくことが当該施設の円滑な整備を図る上で重要です。
(3) 生産技術の不断の向上
美味しい果物などの農産物や見事な花きなどは、来園者が求める大きな魅力であり、観光農園が提供出来る価値です。その魅力を持続かつ安定的に提供できるよう、普及機関との提携、社内研修などを通じ、不断の栽培技術の向上、土壌改良等を図る必要があります。
(4) 来園者増加に向けての経営努力
季節間の収益格差の縮小と、安定的な農園経営の確保を図るためには、年間を通じた集客確保が課題です。
この課題に対し、事業の多角化や旬の時期が異なる多様な果樹の植栽等や受入態勢の整備、効率的な情報発信等に力をいれています。
自己の経営資源の現状を踏まえ、組織内において情報の共有や現場のボトムアップ力の向上などを図るとともに、必要に応じ、専門家への相談、他の農業者、自治体等と提携連携するなどの経営努力が期待されます。
4.観光農園をめぐる状況と今後
(1) 観光農園をめぐる状況
① 観光農園の経営体数の動向
観光農園を経営している農業経営体数は、2005年から2010年にかけては、7,579戸から8,768戸へと15.7%の増加を見ましたが、2010年から2015年にかけては、8,768戸から6,597戸へと、さらに2015年から2020年にかけては6,597戸から5,275戸へと大幅に減少しています(以上農林業センサス)。この減少については、総農家数の減少や高齢化が進んだ小規模農家による事業からの撤退が一因と考えられますが、2020年に発生したコロナウイルスも影響も少なからずあると見られます。
② 観光農園の地域別展開
2010年における観光農園を経営している農業経営体の割合を農業地域類型別に見ると、平地農業地域と中間農業地域を合わせた両地域が全体の約65%を占めていいます。また、都市的地域で展開されている割合も、農家レストランと比べると少なくありません。次に、全国農業地域別に見ると、2020年では、観光農園を経営している農業経営体数全体の約50%が関東・東山地域に立地し、そのうちの40%が東山地域(山梨、長野)に集中しています。観光農園を経営している農業経営体が都市からのアクセスが比較的良く、果樹産地となっている地域に集積していることが見られます。
③ 観光農園の販売金額
観光農園の年間総販売金額は、2010年が352億円、2015年が378億円、2017年が402億円と着実に増加をしてきましたが、2019年359億円(対前年▲10.9%)2020年は293億円(対前年▲18.4%)と減少を見ました。2020年については、コロナ禍が影響したのではないかと考えられます(参考:観光と連携した他の業態の売上(2020年):農家民宿▲33%の36億円、農家レストラン▲21.9%の279億円)(農林水産省「6次産業化総合調査結」)。
1戸(経営体)売上額を見ると、2010年は、402万円、2015年572万円、2020年555万円となっています。2010年から2020年にかけて、全体の売上げが352億円から293億円と▲17%減少する一方、同期間で1戸(経営体)当たり売上額は、38%の高い増加率となっています。
(2) 観光農園の今後
国内観光業は、コロナウイルスの拡大を受けて、深刻な影響を被りました。2020年の国内旅行消費額は、前年比▲55.0%と大幅な減少を見ました。観光農園についても、前述したとおり、その影響は見られました。一方で、コロナウイルスの影響を通じて、観光に対する人々の意識に変化が見られ、「自然豊かなところに行きたい」、「近場で楽しみたい」という傾向が強まっているとも言われています。加えて、地元農産物を求める消費者の増加、最近の「モノ」から「コト」への消費者の価値重視を考えると、観光地としての農村の魅力は、引き続き大きなものがあると考えられます。
こうした中、コロナ感染防止への十分な対策をとりながら、消費者ニーズ等に向けた適切な経営努力が行われれば、観光農園等を導入している農業経営の改善、発展の可能性は大きいと期待されます。成果をあげている農業経営体も多く存在します。
(参考)農地転用不許可の例外
(1) 農用地区域内農地の農地転用不許可の例外
農用地区域内農地は、原則として農地転用が許可されませんが、農振計画の農用地利用計画で「耕作又は養畜の業務のために必要な農業用施設」用地として用途区分がされている農地を転用して、農業用施設を設置する場合等は、例外的に許可されます。
① 「耕作又は養畜の業務のために必要な農業用施設」
具体的には、次の施設と定められています(農振法施行規則第1条)。
□ 農畜産物の生産、集荷、出荷施設(畜舎、温室、集出荷施設、貯蔵施設等)等
□ 農機具収納施設、堆肥舎等
□ 次の農畜産物の加工・販売施設
(ア) 農畜産物加工施設:主として、自己の生産する農畜産物等を原材料として使用する製造・加工施設
(イ) 販売施設:主として、自己の生産する農畜産物等又は(ア)の施設製造、加工されたものの販売の用に供する施設
□ 農業廃棄物処理施設
□ 休憩所、駐車場及びトイレ
農用地又は前記施設に附帯して設置されるものに限られます。
② 一時転用をする場合
(2) 集団的優良農地(甲種農地・第一種農地)の不許可の例外
集団的優良農地の転用は、原則として、許可することはできませんが、転用行為が次に該当する場合には、例外的に許可することができます。
農業用施設・農畜産物処理加工施設、農畜産物販売施設その他地域農業の振興に資する施設(農業用施設等)として次のものを設置する場合
□ 農業用施設
農業用道路等、農畜産物の生産、出荷、貯蔵、出荷施設、農業生産資材の保管施設等
□ 農畜産物処理加工施設
その地域で生産される農畜産物(主として、自己の生産する農畜産物又は施設が設置される市町村及びその近隣の市町村の区域内で生産される農畜産物をいう。) を原料として処理又は加工を行う施設が該当する。
□ 農畜産物販売施設
その地域で生産される農畜産物(当該農畜産物が処理又は加工されたものを含む。)の販売を行う施設で、農業者自らが設置する施設のほか、農業者の団体等が設置する地域特産物販売施設等が該当する。
○ トイレ、駐車場等の扱い
農業用施設に該当:(耕作又は養畜の事業のために必要不可欠な駐車場、トイレ等)
「農業用施設等」※に該当:(農業用施設等の管理又は利用のために必要不可欠な駐車場、トイレ、事務所等で、当該施設等と一体的に設置される場合)
※「農業用施設等」:農業用施設、農畜産物処理加工施設又は農畜産物販売施設
当該コンテンツは、「一般社団法人 全国農業会議所」の分析に基づき作成されています。