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1.営農と発電の両立
営農型太陽光発電とは、農地転用許可制度に係る一時転用の許可を受け、農地に簡易な構造で容易に撤去できる支柱を立てて、上部空間に太陽光を電気に変換する設備を設置し、下部農地で営農を継続しながら、発電を行う事業をいいます。
事業のねらいは、上部空間の太陽光発電設備(パネル)の設置面積割合等を下部の農作物の生育に必要な日照量が確保できる程度に抑制することにより、営農と発電の両立を図ることにあります。
2.営農型太陽光発電設備の取扱いの主な内容
以下の説明は、2024年4月1日施行の改正省令及び「ガイドライン通知」(4(2)参照)の取扱いによります。
① 一時転用許可に当たり、次の事項をチェック
営農型太陽光発電設備の設置には、支柱の基礎部分について、農地法に基づく一時転用許可を得る必要があります。(2013年3月31日通知〜)
許可権者は、一時転用許可申請があった場合、次の事項をチェックします。
一時転用期間が一定の期間内(通常3年以内)となっているか
一時転用期間が10年以内になるケース (2018年5月15日通知)
次のいずれかに該当するときは10年以内(その他は3年以内)
- 認定農業者等の担い手が下部農地で営農を行う場合
- 遊休農地を活用する場合
- 第2種農地又は第3種農地を活用する場合
下部農地での営農の適切な継続が確実か
- 生産された農作物の品質に著しい劣化が生じていないこと
- 下部の農地の活用状況が次の基準を満たしていること

- 毎年の栽培実績及び収支の報告が適切に行われるか
- 農作物の生育に適した日照量を保つための設計であるか
- 効率的な農業機械等の利用が可能の高さ(最低地上高2m以上)であるか
- 地域計画の区域内の農地の利用集積等に支障がないとして協議の場での合意が得られているか 等
② 一時転用許可は、再許可が可能
- 再許可では、従前の転用期間の営農状況を十分勘案し総合的に判断
- 自然災害や営農者の病気等やむを得ない事情により、営農状況が適切でなかった場合は、その事情等を十分勘案
- 当初許可時には遊休農地であっても、再許可時には遊休農地として扱わないことに留意
③ 年に1回の報告により、農作物の生産等に支障が生じていないかチェック
- 報告の結果、営農に支障が生じている場合には、現地調査を行い、改善措置等を指導
- 一時転用許可を受けた者が当該指導に従わない場合は、是正勧告や原状回復命令等の措置
3.営農型太陽光発電の導入状況
① 農地転用許可実績
営農型太陽光発電設備の設置については、2013年3月に取扱通知が発出され、農地転用の許可の取扱いが明確化されました。
以後、新たに農地の一時転用許可を受けた許可実績は2022年度までに、5,351件、1,209.3haとなっています。各年毎の許可件数の推移をみると、ほぼ、増加傾向で推移しており、2022年度には、過去最高の975件の許可が行われました(表1)。

② 営農型太陽光発電設備に係る農地区分の設置者と営農状況
- 2022年度に新たに農地転用許可を受けた営農型太陽光発電設備(975件)に係る農地区分を見ると、農用地区域内農地が669 件(69%)で、第1種農地が190件(20%)となっており、これらの農地で全体の9割(859件)を占めています。この農地の区分割合は、これまでと同様の傾向にあります。
- 2013年度から2022年度までに新たに農地転用許可を受けたもののうち、遊休農地を活用したものは10.0 %(535件)となっています。
③ 営農型太陽光発電設備に係る設置者と営農状況
- 営農型太陽光発電設備の設置者(2022年度末)は、主として発電事業を営んでいる発電事業者が設置したものが70%(3,618件)で、農業者や農地所有者が設置したものが30%(1,546件)と、発電事業者による設置が多数を占めています。
- 2022年度までに農地転用許可があった営農型太陽光発電設備下部農地の営農者をみると、全体の37%(1,926件)が担い手でしたが、2022年単年度に当該許可があったもので見ると、担い手は全体の57%(554件)でした。担い手が下部農地を営農するケースが増加しているのは、担い手が下部農地を営農する場合には一時転用期間がそれまでの3年から10年に延長されたこと(平成30年5月の取扱い見直し)に関係していると考えられます。
- 営農型太陽光発電設備の下部農地での栽培作物の分類をみると、種類は様々ですが、観賞用作物が36%(1,854件)と最も多く、次いで、野菜等が29%(1,477件),果樹が13%(693件)の順となっています。
主な作物別にみると、さかき、しきみが32%(1627件)、みょうがが7%(374件)となっており、太陽光パネルにより遮光することを前提とした特徴的な作物が多く栽培されています。
4.営農型太陽光発電の課題と取扱いの厳格化
(1)課題|約2割で下部農地での営農に支障が発生
- 許可権者は、これまで、営農型太陽光発電の転用許可要件を一時転用許可要件の詳細を定めた農村振興局長通知(2013年3月31日通知。2018年5月15日通知)に基づき、「営農の適切な継続」等の審査・運用に当たってきました。
- 一方、営農の状況を見ると、2022年度末において、営農型太陽光発電設備の下部農地での営農に支障があった者の割合は22%(927件)となり、その支障の内容をみると、単収減少・生育不良(営農者に起因)が68%(635件)となっております。この場合、単収が大幅に減少しているケースに対しては、農業委員会等が指導していますが、現場からは「通知に基づく運用では限界がある」等の声が上がっていました。
(2)取扱いの厳格化
以上の課題に対応し、営農が適切に継続されない事例を排除し、農業生産と発電を両立するという営農型太陽光発電のあるべき姿とするため、これまで局長通知で定めていた一時転用許可基準等の規定を法定化(農地法施行規則に明記)するとともに、具体的な考え方や取扱いに関するガイドライン(営農型太陽光発電に係る農地転用許可制度上の取扱いに関するガイドライン)を制定(農村振興局長通知)しました。これら規則及びガイドライン局長通知は、2024年4月1日に施行されました。
なお、太陽光発電の設置者と営農者が異なる場合に、上部空間に太陽光パネル設置のために民法269条の2第1項の地上権等(区分地上権等)を設定する場合に、農地法3条第1項の許可が必要となるのはこれまで同様です※。
※この場合、5条許可(一時転用許可)に係る申請と3条許可に係る申請は同時に行うとともに、区分地上権等の設定期間を一時転用期間と同一期間とすることとされています。
農地法施行規則に関係規定を明記(法定化)
〔一時転用に関する許可基準〕
次に掲げる事由に該当する場合は許可できない。
① 単収が2割以上減少
② 遊休農地を利用する場合において営農が行われないこと
③ 品質が著しく劣化
④ 毎年度の実績報告や収支報告が適切に行われず営農の状況が確認できないこと
⑤ 設備の角度や間隔からみて日照に影響
⑥ 支柱の高さ、間隔等からみて農業用機械の利用に支障(最低地上高2m以上が確保されない)
⑦ 連携に係る契約を電気事業者と締結する見込みがないこと
⑧ 原状回復命令等を命じられていること
〔営農が適切に行われることを示す資料の提出事項〕
営農型太陽光発電を目的とする場合は、以下の書類を添付する。
① 設備に係る設計図
② 栽培計画、収支見込み等を記載した営農計画書
③ 生産量に係るデータ、知見を有する者の意見等下部農地への影響の見込み及びその根拠となる書類
(地域で栽培されていない農作物や生産に時間がかかる農作物については、自らの栽培実績又は栽培理由書)
④ 設備設置者が撤去費を負担することについて合意した書面
⑤ 毎年度、栽培実績及び収支報告を提出する旨誓約する書面
ガイドラインの制定(農村振興局長通知)
法令に規定する収量8割要件等の考え方の詳細その他具体的な運用を記載する。
① 地域計画区域内においては、農地の集積等に支障がないものとして、協議の場で合意を得た土地の区域内で実施すること
② 遊休農地を利用する場合、再許可時には収量8割要件を適用すること
③ 支柱部分と下部農地面積の合計が一定規模を超える場合は、都道府県機構への意見聴取や国への相談を行うこと
④ 変電設備等については、原則農地以外から選定すること。やむを得ず一時転用して設置する場合は、規模及び位置が適正であること。
⑤ 毎年度の収支報告から、計画に沿った農業経営が行われているか確認するとともに、地域の持続的な農業生産への寄与について検討すること。
⑥ 営農に支障が生じているものや大規模なものについては、農地転用許可権者と国が協力して、毎年度、現地調査を実施すること。
⑦ 営農が適切に行われない不適切事業に対し、勧告や処分・命令を行った場合は、その情報を農水省及びFIT制度担当部局へ連絡、農水省は当該情報をデータベース化して地方公共団体と共有すること。
(3)今後の農政における営農型太陽光発電の位置づけ
①「新しい食料・農業・農村基本計画」
2025年4月に閣議決定された「新しい食料・農業・農村基本計画」では、営農型太陽光発電については、一定の前提の下、引き続き、推進すると記述されています。
「新しい食料・農業・農村基本計画」(抄)
「営農型太陽光発電については、望ましい取り組みを整理するとともに、適切な営農の確保を前提に市町村等の関与の下、地域活性化に資する形で推進する」
②「望ましい営農型太陽光発電検討会」の開催(2025年5月29日〜)
①のとおり、新しい食料・農業・農村基本計画では、営農型太陽光発電については、一定の前提の下、引き続き、推進すると記述されましたが、知見不足などもあり、地域が、望ましい営農型の取組であるかどうかを判断することが難しい現状にあるとみられます。
このため、「望ましい営農型太陽光発電」の考え方を具体的に整理し、地域の判断に資する優良な取組に関する基準を提示するため、有識者等からなる検討会が開催されているところです。
(参考)
1.営農型太陽光発電に係る農林水産省事業等
(1) 営農型太陽光発電のモデル的取組支援※
※地域循環型エネルギーシステム構築(2025年度予算612(650)百万円の内数)のうち、再生可能エネルギー利用のモデル的取組支援
本事業は、地域循環型エネルギーシステムの構築に向け、①地域で、営農型太陽光発電設備下における最適な作物、効果的な設備の設計(遮光率や強度等)、電力供給等について検討し、モデルを策定、②策定したモデルに基づいて、地域に最適な営農型太陽光発電設備を導入実証する取組を支援(定額、1/2以内)するものです。
〔交付実績 2022年度〜〕※()内は事業実施主体数 農林水産省資料
北海道ブロック|北海道(1)
東北ブロック|岩手県(1)、宮城県(1)、福島県(2)
関東ブロック|茨城県(2)、千葉県(1)、神奈川県(1)、静岡県(1)
近畿ブロック|京都府(1)、兵庫県(1)
中国四国ブロック|鳥取県(1)、広島県(1)
(参考)「営農型太陽光発電の高収益農業の実証」(2018〜2019年度結果)(農林水産省事業)
その概要は、次のとおりでした。
〔① 秋田県秋田市における「えだまめ」の実証概要〕
|設備概要|
発電出力39.6kW、支柱間隔4.2m、施設面積8.5a、遮光率31%、高さ3.4m
|結果概要|
- 発電設備下ではやや生育量が不足し、開花期も2日程度遅くなる等生育へ影響があるが、収量、品質は慣行と同等と推定
- 機械作業は可能であるが、支柱に注意して作業する必要があり、作業時間が増加
〔② 静岡県における茶、ブルーベリー等の実証結果概要〕
茶
|設備概要|
発電出力22kW、支柱間隔3.0m、施設面積4.6a、 遮光率50%、 高さ2.8m
|結果概要|
- 50%程度の遮光率でも、収量、品質に影響がないとの結果
- 発電設備下では、一番茶の新芽の生育が早い傾向
- 発電設備下では、朝方の葉温の低下が抑制され、凍霜害の発生が抑えられる傾向
ブルーベリー
|設備概要|
発電出力13kW、支柱間隔4m、施設面積2.6a、 遮光率36%、 高さ3m
|結果概要|
収穫時期は数日遅れる傾向があるが、収量、果実品質は同等
(2) 地域資源活用展開支援事業
本事業は、地方公共団体や農林漁業関係者が再生可能エネルギー等を活用することによって、農林漁業の現場で抱える課題を解決しようとする取組に対してアドバイスを行うため、専門家による個別相談窓口を設置

2.農山漁村再生可能エネルギ―相談窓口
営農型太陽光発電の制度や手続きについては、次の相談窓口をご活用ください。
農林水産省:大臣官房環境バイオマス政策課 再生可能エネルギー室(Tel:03-6744-1507)
地方農政局(東北、関東、北陸、東海、近畿、中国四国、九州):生産部 環境技術課
北海道農政事務所:生産経営産業部 生産支援課
内閣府沖縄総合事務局:農林水産部 食料産業課
当該コンテンツは、「一般社団法人 全国農業会議所」の分析に基づき作成されています。
