更新日
農業経営を法人化する場合には、経営上のメリットのほか、税制上のメリットや資金調達上のメリットがあります。
農業経営者の所得の増加により節税を目的として法人を設立されることもありますが、近年は優秀な人材確保を目的として法人化する経営者が増えています。
経営上のメリット
経営管理能力の向上
個人事業者の場合には、簡易な記帳が認められていますが、法人の場合には、複式簿記による経理が求められます。手間が増えるというデメリットもありますが、家計と経営が分離され、お金の流れが明確になることで経営管理能力が向上します。どんぶり勘定から卒業します。
対外信用力の向上
法人の場合には、複式簿記の経理により貸借対照表(B/S)や損益計算書(P/L)などの財務諸表の作成が義務化されます。法人は財務管理を対外的に示すことにより、金融機関や取引先からの信用力が向上します。将来の融資や取引先の拡大にメリットがあります。
人材の確保・経営発展の可能性の拡大
法人の場合には、従業員数に関わらず社会保険(健康保険や厚生年金保険)への加入が義務付けられています。法人の保険料負担は発生しますが、従業員は安心して働くことができます。
法人の看板もありますので、個人事業者に比べて人材確保において優位性があります。また、優秀な人材の確保は、将来の事業発展の可能性が広がり、経営の発展が期待できます。
経営承継の円滑化
個人の農家の場合には、長男など親族が相続等により経営を承継することがほとんどです。しかし、法人の場合には、構成員や従業員に経営を承継することができます。法人で経営をすることで、意欲のある有能な後継者を確保することができるようになります。
事業年度の選択
法人は個人と違って、1年以内の期間であれば事業年度を自由に選択することができます。したがって、農業経営の閑散期や未収穫農産物など仕掛品の棚卸の少ない時期を期末とすることで決算業務の負担を軽減するとともに納税資金に困らないように慎重に決算期を選択しましょう。
税制上のメリット
法人税と所得税の税率差による減税
個人事業者の場合、所得税が所得の増加に伴って高い税率で課税される累進課税のため、所得が増えるほど税負担が重くなります。
一方、法人の場合、法人税は、基本的には一定税率の比例課税です。ただし、資本金1億円以下の中小法人等には軽減税率が適用されます。事業主の所得が多くなると、税務上は法人経営が有利となります。
消費税納税が設立から最大2期免除(一定法人を除く)
法人を設立した場合には、最大2年間、消費税の納税が免除になります。現行の消費税の標準税率が10%ですから免税となった金額も大きくなりメリットがあります。
ただし、設立時の資本金額や給与額によっては、納税義務が免除されなくなることがありますので注意が必要です。
設備投資や棚卸資産の承継が多い場合は、設立時から消費税の課税事業者となる方が有利な場合もあります。
役員報酬額と給与所得控除の恩恵
法人が支出した役員報酬額は、原則としてその全額がその法人の損金となる一方で、役員が受け取った役員報酬額については、所得税の給与所得に該当し、給与所得控除が差し引かれ所得税及び住民税が計算されます。つまり、役員報酬額には、給与所得控除分に課税されないメリットがあります。
青色欠損金額の繰越期間
青色申告の場合、個人は、赤字(欠損金)を3年間繰り越すことができますが、法人は10年間(2018年3月以前開始事業年度は9年間)、繰越控除することができます。外部要因により年々の所得が不安定になりがちな農業には、所得が大きくなった年度の納税額を欠損金の繰越控除により減少させることができます。
資金調達上のメリット
制度資金の融資限度額拡大
たとえば、認定農業者を対象としたスーパーL資金は、個人の3億円から法人は10億円まで融資限度額が増額します。農業経営を拡大する場合には、融資限度額は重要です。
農林漁業法人等投資育成制度の活用
アグリビジネス投資育成株式会社は、農業法人に出資という形で資金を提供する公的な金融機関です。同社の出資は一般に配当優先無議決権株式によって行われており、農業法人の財務安定化や対外信用力の強化に寄与します。
当該コンテンツは、「アグリビジネス・ソリューションズ株式会社」の分析・調査に基づき作成されております。