更新日
従事分量配当とは
従事分量配当とは、組合員に対してその者が農事組合法人の事業に従事した程度に応じて分配する配当です。農業の経営により生じた剰余金の分配であり、農業経営の事業(2号事業)に対応する配当です。
協同組合等に該当する農事組合法人が支出する従事分量配当の金額は、配当の計算の対象となった事業年度の損金の額に算入します。従事分量配当を支出する前の状態で決算を確定したうえで、剰余金処分によって従事分量配当の支出が決定されます。
このため、損益計算書には労務費相当額が計上されず、労務費相当額を含めた剰余金が生ずることになりますが、事業年度終了後の定時総会において事後的に決定した従事分量配当をその事業年度で損金算入することができます。
農事組合法人は、いわゆる「確定給与」を支給しない場合に限って、協同組合等として取り扱われます。つまり、給与制を選択した場合には普通法人、従事分量配当制(無配当の場合を含む)を選択した場合には協同組合等となりますが、いずれを選択するかは事業年度ごとに行うことができます。
従事分量配当制のメリット
集落営農を農事組合法人として法人化すれば、労務の対価として組合員に給与を支払う必要がなく、従事分量配当によって剰余金の範囲内で分配することが可能です。
このため、基本的に赤字にならない運営が可能になり、しかも従事分量配当が消費税の課税仕入れになるので、毎事業年度、消費税が還付になるのが通例です。
また、役員に対して、経営管理の対価を役員報酬(定期同額給与)として支払ったうえに、農作業の対価としての従事分量配当を併給することができ、任意組織のときの労働対価の支払いのルールを大きく変えずに運営することができます。
「従事した程度に応じて分配」とは
従事分量配当は、一般に農作業に従事した時間に応じて支払われるものと考えられていることから、作業日報などにより農作業の時間等を継続的に記録する必要があります。
ただし、従事分量配当における「従事の程度」とは、単に時間だけで評価するのでなく、作業の質をも考慮すべきであり、作業の種類に応じて従事分量配当の単価を変えることは可能です。
農事組合法人定款例においても、従事した日数だけでなく「その労務の内容、責任の程度等に応じて」従事分量配当を行うものとしています。
また、農事組合法人が複数の作目などによる農業経営の事業を行う場合において、部門別の損益の範囲内で従事分量配当を行うため、部門別の損益を明らかにしたうえで、それぞれの従事者に対して作目別の従事分量配当の単価を変えることも、農協法上、とくに問題はなく、税務上も損金算入が認められると考えられます。
ただし、圃場を管理する個人別に部門を設定し、その部門損益をそのまま、従事分量配当とした場合、従事した程度に応じた分配とは言えず、損金算入が認められない可能性があるので、注意が必要です。
同様に、出来高払制の圃場管理料は、従事分量配当としては認められない可能性があるため、損金経理による作業委託費として経理することをお勧めします。作業日報に基づかずに支払う場合は、従事分量配当ではなく農作業委託料として支払うことをお勧めします。
役員報酬と従事分量配当は併給可能
農事組合法人の場合には、定期同額給与としての役員報酬とは別に、従事分量配当として役員に対して労務の対価を支払うことにより、役員給与、従事分量配当の双方について損金算入することができます。
法人税基本通達14-2-4において、「役員又は使用人である組合員に対し給与を支給しても、協同組合等に該当するかどうかの判定には関係がない」としています。このため、たとえば役員である組合員に対して、役員としての役割に役員報酬を支給したうえで、現場における生産活動に従事した程度に応じて別途、従事分量配当を行うことが可能です。
ただし、役員固有の業務について同一の業務を対象として役員報酬と従事分量配当を併給することは認められないと考えられます。
また、現場における生産活動に対する報酬を含んだ相当の額の役員報酬を支給しているため、通常の年はその役員に対して従事分量配当を支給していないにもかかわらず、利益の額が大きくなった特定の事業年度について、さらに同一人に対して従事分量配当を行った場合には、利益調整目的と認定されて否認されるおそれがあります。
従事分量配当は消費税の課税仕入れに
従事分量配当は 、①定款に基づいて行われるものであること、②役務の提供の対価としての性格を有すること--から、課税仕入れに該当するという見解が国税庁より示されました。文書回答例「農事組合法人が支払う所得税法施行令第62条第2項に該当する従事分量配当に係る消費税の取扱いについて」においても課税仕入れに該当するとされています。
なお、2019年10月に消費税率が8%から10%に引き上げられましたが、「従事分量配当金に係る消費税の適用税率は、農事組合法人の事業年度終了の時における税率を適用する」という見解が財務省担当者より示されています。
消費税は、課税売上げに係る消費税額(売上税額)から課税仕入れ等に係る消費税額(仕入税額)を控除して計算(仕入税額控除)するのが基本です。このような計算方法による納税を「一般課税」と呼んでいます。一般課税では、売上税額よりも仕入税額が多く、控除し切れない場合、消費税が還付になります。
消費税率の引上げと同時に飲食料品などを対象に消費税の軽減税率制度が実施されましたが、集落営農の農事組合法人の場合、課税売上げの大半が飲食料品で消費税率が8%であるのに対して、課税仕入れは消費税率が10%となるため、消費税の還付を受けている農事組合法人では、2020年度以降、消費税の還付額が増える(納税額が減る)ことになり、法人化のメリットも増加します。
ただし、農事組合法人における従事分量配当の支払先の農業者のほとんどは免税事業者ですので、2023年10月からのインボイス制度の導入によって従事分量配当が事実上、仕入税額控除の対象から外れることになります。
当該コンテンツは、「アグリビジネス・ソリューションズ株式会社」の分析・調査に基づき作成されております。