更新日
集落営農の法人化は、地域の農業を継続させるための手段です。農業経営を法人化することで、農地の利用権の設定が受けられ、農地中間管理事業を活用できるのに加え、出資の形で資金を調達できるなど、経営資源の集積の面で有利になります。
とくに集落営農の法人化では、消費税の還付が受けられたり構成員の所得税の負担が軽減されたりするなど税務上のメリットも大きいだけでなく、政策的にも法人化が方向づけられています。
任意組織と法人の違い
集落営農を法人化すると内部留保がし易くなり、規模拡大や事業の多角化などの経営発展に向けた投資に備えることができます。
内部留保に累進課税の所得税が課税される個人事業やその共同事業(任意組合)にくらべて、法人経営では実効税率が低くなるからです。
一方、任意組合は構成員課税となるため、組織が内部留保するのに構成員が税金を負担しなければならず、内部留保についての合意形成が難しいという欠点があります。
農事組合法人による集落営農の法人化メリット
集落営農を農事組合法人として法人化すれば、労務の対価として組合員に給与を支払う必要がなく、従事分量配当によって剰余金の範囲内で分配することが可能です。このため、基本的に赤字にならない運営が可能になり、しかも従事分量配当が消費税の課税仕入れになるので、毎事業年度、消費税が還付になるのが通例です。
ただし、2023年10月から開始するインボイス制度により、免税事業者等からの課税仕入れについて原則として仕入税額控除の適用を受けることができなくなるため、経過措置に応じて段階的に消費税の還付が減少し、最終的には納税になります。また、役員に対して、経営管理の対価を役員報酬(定期同額給与)として支払ったうえに、農作業の対価としての従事分量配当を併給することができ、任意組織のときの労働対価の支払いのルールを大きく変えずに運営することができます。
さらに、農地所有適格法人になることで、任意組織では適用されない農業経営基盤強化準備金を活用することができ、法人税の負担を軽減できます。
また、組織の内部留保に対する課税について、任意組合(民法上の組合)では構成員個人の所得税として負担するのに対して、法人では法人税として負担することになりますが、農業経営基盤強化準備金の活用によって法人税の負担も軽減されます。
一般社団法人による集落営農法人化のメリット
一般社団法人の集落営農のメリットは、農業のみを行う場合、「非営利型法人」として運営することで法人税の申告義務がないことです。また、非営利型法人の一般社団法人では農業に法人税が課税されないため、役員の農作業の対価として日当(給与)を支払っても法人税等の負担は生じません。
集落営農の法人化のメリットは大きいのですが、にもかかわらず法人化に踏み出せない集落営農組織もあります。集落内に担い手がいないため、将来、運営が困難になって法人を解散しなければならなくなるのではないかとか、法人になると税務申告が大変になるのではないかといった不安があるからです。
しかし、担い手の確保が難しいのであればなおのこと、集落営農を法人化して経営が成り立つ条件整備をするという逆転の発想が必要です。法人化することによって他の集落・地域の法人との事業統合もしやすくなります。
また、集落営農の組織を「地域資源管理法人」という一般社団法人(非営利型法人)の形態にすれば法人税の申告も必要なくなります。とりあえず農事組合法人として法人化したうえで、将来は広域連携によって事業統合し、残った農事組合法人を一般社団法人に組織変更することもできます。
株式会社による集落営農の広域法人化
担い手の確保が難しく、集落単体で農事組合法人を設立しても事業の継続が困難な場合は、複数の集落営農組織が広域に連携して法人化するなどの工夫も必要です。複数の集落営農組織をまとめて広域に法人化する場合、出資者の数が多数となることから、株式会社の方が適しています。
これは、農事組合法人には、農業協同組合の場合と異なり、総代会が認められないため、原則として総会に組合員本人が出席して議決をする必要があり、農事組合法人では出資者が多数だと運営が難しくなるからです。
この場合、1階の集落組織と2階の農業法人とで役割分担をする二階建て方式にしたり、さらに1階の集落組織を一般社団法人による「地域資源管理法人」としたりする工夫が必要になります。
当該コンテンツは、「アグリビジネス・ソリューションズ株式会社」の分析・調査に基づき作成されております。