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個人事業のままでの承継
棚卸資産の承継
棚卸資産の承継は、贈与または譲渡(売買)により行います。相続時精算課税の特別控除額(2,500万円)の範囲内で棚卸資産が贈与できるなど、事業規模が小さい場合には、贈与による承継が税務面では有利です。その範囲を越える場合には、一般的には、贈与よりも、親族間売買のほうが有利です。
肥育経営、一貫経営など、棚卸資産である家畜を多数有する経営では、棚卸資産の譲渡による承継に際し、現経営者に多額の消費税が発生します。
後継者は、開業の年から2年間は消費税の免税事業者です。しかし、敢えて課税事業者(原則課税)を選択することで、現経営者が負担した消費税相当の仕入税額控除により還付を受けることができます。
ただし、個人事業の消費税は暦年課税のため、後継者が還付を受けるのは1年後です。それまでの間、借入金等により消費税の納税資金を調達する必要があります。
免税事業者か、課税事業者を選択するか、どちらが有利かはケースバイケースですので、計画に際し税理士等の専門家と相談しシミュレーションを行います。
固定資産の承継
固定資産は、使用貸借契約書を作成し、使用貸借(無償貸付)により貸し付けます。
税務上、不動産については、登記名義を変更するなど特に贈与したと認められるものを除いて、贈与はなかったものとされます(昭35直資15「父子間における農業経営者の判定ならびにこれにともなう所得税および贈与税の取扱について」)。
動産については、「不動産以外の農業用財産の贈与を留保する旨の申出書」という様式がありますが、国税庁のホームページに公開されておらず、税務署によって認められない場合があります。
法人化による承継
棚卸資産の承継
法人化では、個人が所有する資産を譲渡(売買)により法人に移転しますので、棚卸資産の移転に際し、現経営者に多額の消費税が発生します。ここで、法人が課税事業者を選択し、かつ、法人の決算期を工夫します。
たとえば、3月決算の法人を2月に設立し、消費税の課税事業者を選択、設立日に棚卸資産を個人から法人へ譲渡します。申告期限の5月末までに法人第1期の還付申告を行い、法人が消費税の還付を受けます。
経営者個人の消費税の申告は、法人設立の翌年になりますので、余裕をもってこの還付を受けた資金を現経営者の消費税の納税資金に充当できます。
新設法人は、棚卸資産の譲渡代金を一括払いできる資金力がありませんので、新設法人が金融機関から借り入れる、譲渡代金を分割払いにするなどの方法を取ります。
固定資産の承継
固定資産の承継は、賃貸借か譲渡(売買)により行います。農地等については、農地法第3条の許可を受けて、賃貸借又は使用貸借の権利設定をします。
農地等について納税猶予を受けている場合には、農地中間管理機構を通じた賃貸借契約にするなど、相続税法に定める特定貸付に該当するように権利設定を行なったうえで、税務署に対し納税猶予の特定貸付けに関する届出書を提出します。これを失念すると、納税猶予の期限が確定してしまい、猶予された贈与税・相続税を利子税と合わせて納税しなくてはならなくなります。
当該コンテンツは、「アグリビジネス・ソリューションズ株式会社」の分析・調査に基づき作成されております。