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1.新制度の概要
(1) 経緯
農業ハウス等農業用施設用地の農地法上の取り扱いについては、これまで、農地を形質変更せず、棚の設置やシートの敷設などいつでも耕作可能な状態が保たれているものは、引き続き農地法上の農地に該当する一方、コンクリート等で地固めし、耕作できない状態になっているものは農地に該当せず、農地転用の許可が必要とされてきました。
こうした中、平成30(2018)年11月16日に施行された農地法一部改正により、農業委員会へ届け出を行うことで、農地転用の許可を要することなく、必要底面を全面コンクリート張りにした農業用ハウスなどの設置が可能になりました。(農地法改正の社会的背景については、下表参照)。
●農業ハウス等の底面をコンクリート等で覆う現場ニーズ
(2) 農作物栽培高度化施設の届出
① 農地に農業用ハウスを設置するに当たってその底面を全面コンクリート張りとする場合、農地法(以下「法」という。)第43条第1項の規定により、農業委員会に届け出ることが必要となります。
設置する施設が農作物栽培高度化施設(以下「高度化施設」という。)の基準を満たしたもので、専ら農作物の栽培の用に供されるものと判断される場合、高度化施設の用に供する土地(以下「高度化施設用地」という。)は、農地とみなされ、農地転用に該当しないこととなりました(法第43条第1項)。
この届出により、高度化施設用地は農地扱いとなりますので、固定資産税は農地として課税され、相続税の納税猶予の適用地にすることもできます。
なお、農地を高度化施設用地として利用するため、所有権移転や賃貸借等の設定をする場合、この届出と併せて法第3条の許可申請等を行うことが必要です。
② 高度化施設とは、専ら農作物の栽培の用に供する施設であって農作物の栽培の効率化又は高度化を図るためのもののうち周辺の農地に係る営農条件に支障を生ずるおそれがないものとして農林水産省令で定める一定の基準を満たしたものと定義付けられています(法第43条第2項)。
2.高度化施設の主な基準
高度化施設の主な基準(農地法施行規則(以下「則」という。)第88条の3)
① 農作物の栽培の用に供する施設であること。
② 施設の棟高は8m以内、軒高は6m以内とし、平屋構造に限ること。(下図参照)
③ 屋根や壁面を透過性のないもので覆う施設については、周辺農地に2時間以上日影が生じないこと(下図参照)。
●高さ・日照基準
④ 施設からの排水について、放流先の管理者の同意を得ること。
⑤ 本制度の対象であることを示す標識を設置すること。
⑥ 借地に施設を設置する場合には、土地所有者の同意を得ていること。
⑦ 附帯設備の取扱い:事務所、駐車場等は、高度化施設用地における農作物の栽培に通常必要不可欠なものとは言えず、当該農地から独立して他用途への利用又は取引の対象となり得ると認められる場合には、高度化施設用地として取り扱うことはできないとされている。
⑧ 高度化施設の屋根等に太陽光発電設備等を設置する場合の取扱い:当該発電設備が一定の要件に該当する場合は、高度化施設に該当しますが、高度化施設に附帯して設置する場合には高度化施設用地として取り扱うことはできません。(詳細は後述の「改正通知」第2の7参照)
3.農業委員会への届出
農業委員会への届出(則第88条の2)
(1) 手続について
① 高度化施設届出書を農業委員会へ提出して行います。届出書には、届出者の氏名、住所、該当地の所在、地番、地目、面積、所有者等、施設の面積、高さ、軒の高さ及び構造、施設の設置時期を記載します。
② 届出書には、次の書類を添付します。
ア 申請者が法人である場合には、法人の登記事項証明書及び定款又は寄附行為の写し
イ 該当地の土地の登記事項証明書
ウ 施設の位置、配置状況及び標識の位置を示す図面
エ 高さ基準に適合することを示す図面
オ 営農に関する計画書
カ 次に掲げる要件の全てを満たすことを証する同意書等
(ア)農作物の栽培が適正に行われていないと認められる場合における適切な是正措置を講ずることについての同意書
(イ)当該施設設置後、周辺農地に係る営農条件に支障が生じたと認められる場合における適切な是正措置を講ずることについての同意書
キ 施設からの排水の放流先の河川管理者等又は借地に施設を設置する場合における土地所有者の同意書
ク 施設の設置に必要な行政庁の許認可等を受け又は受ける見込みがあることを証する書面
ケ 当該施設が周辺の農地に係る営農条件に著しい支障を及ぼすおそれがある場合において当該支障を生じないことを証する書面
(2) 農業委員会の処理
① 農業委員会は、届出書の提出があったときは、以下の点を確認の上、その受理又は不受理を決定します。
ア 当該施設が前述2の基準を満たしているか
イ 届出書の記載事項が記載されているか
ウ 添付書類が具備されているか
エ 施設設置のために農地に係る権利を取得する場合における法第3条第1項の許可申請がなされているか
② 農業委員会への届出は、受理されるまでは届出の効力が生じません。
③ 農業委員会が届出を受理するときは、遅滞なく受理通知書を届出者に交付します。受理通知書の交付があるまでは、届出者が高度化施設の設置に係る行為に着手しないよう農業委員会は指導することとされています。
4.高度化施設に係る留意事項
① 農業委員会の利用状況調査等の結果、営農計画上営農を行うべき時期に農作物の栽培が行われていないことが確認された場合には、農業委員会から相当の期限(6月以内)を定めての農作物の栽培を行うべき旨の勧告があります。
② 高度化施設設置後、施設において農作物の栽培が行われないことが確実となった場合(前述①の勧告が定める相当の期限経過後も農作物の栽培が行われない場合等)には、高度化施設用地に係る違反転用(法第4条第1項違反)として、当該施設設置者が処分の対象となります。注意してください。
5.その他(届出対象施設)
法第43条第1項の規定による届出の対象は、改正農地法の施行日(2018年11月16日)以降、農地に農作物栽培高度化施設を設置する場合です。同日より前に設置した施設については届出対象外でしたが、「農地法第43条及び第44条の運用について」の改正通知(2020年7月28日)により、一定の基準を満たす施設については、改正法の施行日以前の施設であっても、法第43条の届出の取扱い等を行うことが可能となりました。
その例外的取扱いの対象は、次の(1)の基準の全てを満たすもので、これについては、次の(2)に基づき取り扱うものとされました。
(1) 届出の対象となる施設の基準について
① 届出時点において、農用地区域内にある土地に設置されていること。
② 農業委員会において、当該施設の用に供されている土地について、改正法の施行の日より前に農地転用の許可等を得て、転用が行なわれたことが、関係書類で確認できること
③ 農業経営改善計画又は青年等就農計画において、当該施設で農作物の栽培を行わなくなった場合に施設を撤去し、農地の状態に回復する意向がある旨の記載があること
④ 農作物栽培高度化施設の基準を満たしていること
(2) 法第43条第1項による届出の取扱い等
① 農業委員会は、法第43条第1項による届出があった場合には、前述3に準じて取り扱う。
② 農業委員会は、転用許可の確認に当たっては必要に応じ、当該届出者に対し関係文書の提出を求め、また都道府県等の転用担当部局に対して関係書類の提供を受けること等により、農地転用の許可の有無を確認する。
③ 農業委員会は、届出に係る受理通知書を交付する場合は、届出に係る土地の登記簿上の地目を高度化施設用地としての地目(田又は畑)に変更することが望ましい旨を併せて周知する。
④ 高度化施設用地の登記手続きを適切に行う観点から、農業委員会は届出に係る受理通知書を交付した場合には、速やかに、その旨を農林水産省経営局経由で法務省民事局に通知する。
当該コンテンツは、「一般社団法人 全国農業会議所」の分析に基づき作成されています。