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コロナ禍のなか、インターネットを利用した食品の購入(ECの利用)が大きく伸びました。もともと食品・青果物のECでの購入が伸びていたことに加え、コロナ禍でEC業態が大きく伸長したことから、青果物の流通チャネルとしてECは無視できない規模に拡大してきていると言えます。
Agriwebでは「販路開拓の考え方_WEBの活用編」でECの基本的な考え方を整理してきましたが、今回はもっと深く農業経営におけるEC活用のノウハウを考えていきたいと思います。
農産物ECの分類
「EC」や「BtoC」などの用語の説明は、「販路開拓の考え方_WEBの活用編」を参考にしてもらうとして、ここでは、農産物のECを「インターネットを使い、消費者や事業者に農産物を販売すること」と定義します。また、ここでは「販路開拓の考え方_WEBの活用編」でECプラットフォームと呼んでいる業態は産直型EC、EC販売事業者は仕入れ型ECとして説明していきます。
農産物ECは、まずBtoCとBtoBに分けることができます。これは消費者向けのインターネット販売(BtoC)か、事業者向けのインターネット販売(BtoC)か、ということです。以下に具体的なECサイトを示します。
① BtoCの青果物ECの代表的なサイト
オイシックス https://www.oisix.com/
食べチョク https://www.tabechoku.com/
ポケットマルシェ https://poke-m.com/
② BtoBの青果物ECの代表的なサイト
リーチストック https://reachstock.jp/
ラクーザ https://myfarm.co.jp/service/connect/racuuza
さらにこれらの青果物ECは、その運営形態で、モール型EC、産直型EC、仕入れ型EC,自社ECに分けることができます(図表1)。
【図表1 青果物ECの分類】
分類ごとに、それぞれの特徴を考えてみましょう。
モール型EC
楽天やYahooショッピングに代表されるECモールのECであり、青果物だけではなく、食品から家電まで多くの商品が、様々な店舗から出品されています。モール型ECは、ショッピングモールのように多くの事業者が、それぞれの販売WEBページを作成し、WEB販売店舗をモールサイト(楽天等)に出店する形で運営されます。青果物を販売する店舗(WEBページ)も多く出店しており、消費者はモール型ECのトップページなどから、品名などで検索し、複数の店舗の出品の中から商品を選択することができます。モール型ECサイトが実施するポイント〇倍セールなどの販促に参加することもできますが、基本的には受注〜出荷までは出店者が対応することになります。ショッピングモールのようなECサイト内に出店し、販売を行うことから、この形態をここではモール型ECと呼びます。
産直型EC
食べチョクやポケットマルシェに代表される産直型ECは、モール型ECを青果物などの生鮮食品に限定した形に近い運営形態ですが、その多くはWEB販売店舗を設置するのではなく、産直型ECサイト内に自社商品を掲載する形で販売する形態をとります。自分のIDを登録し、商品のみを掲載、販売するイメージです。受注は産直型ECが行い、生産者へは産直型ECから出荷指示が入り、購入した消費者に直接、生産者から出荷する形になります。ここでは、この形態を産地から商品を直送することから、産直型ECと呼びます。消費者視点では、鮮度の良い生鮮食品を産地直送で購入できるメリットがありますが、産地から直送するがゆえに、注文する生産者ごとに送料が発生するデメリットがあります。
仕入れ型EC
オイシックスに代表される仕入れ型ECは、ECサイト側が生産者から商品を仕入れて、ユーザーへ商品を販売する形態をとります。生産者はECサイトの運営者との取引となり、消費者や事業者への直接販売とはなりません。ECサイト側は、ユーザーからの発注量を考慮して生産者から買取で商品を購入(=仕入れ)し、消費者に販売します。生産者は、複数の消費者に販売される量の農産物をまとめて、ECサイトの運営事業者に納品する形となります。取引形態としてECサイト側の仕入れが発生することから、ここでは、この形態を仕入れ型ECと呼びます。消費者視点では、複数の商品や生産者の商品を注文した場合も、まとめて届き、送料が1回分で済むメリットがあります。
自社EC
生産者が、自分でショッピングカートなどの機能を有したWEBサイトを構築し、そのサイト上で消費者や事業者に商品を販売する形態です。WEBでの集客から受注、販売まで生産者が自ら実施する必要がありますが、自社ECであるためカード決済等以外の余計な手数料が発生しません。自社でWEBサイトを構築して販売することから、この形態をここでは自社ECと呼びます。
農産物ECの比較
ここまで、ECの種類を分類してきましたが、それぞれのEC形態について比較をしてみました(図表2)。
【図表2 EC分類ごとの比較 】
自社ECは、WEBサイト構築から販売代金の回収、顧客管理まですべて自社で実施する必要がありますが、最も自由度が高く、余計な手数料が発生しない方式です。しかし、集客なども含めて全て自社で行う必要があること、WEBサイトの維持やメンテナンス等に工数が多くかかること、専門のノウハウが必要であること、などのデメリットがあります。
仕入れ型ECは、WEB販売ページの作成など、ECを実施するために必要なシステム等は仕入れを行う企業側が用意するため、生産者は通常の契約取引と同じようにEC運営企業と商談し、発注に応じて商品を出荷する形となります。ただし、出荷や顧客管理もEC運営企業が行うため、顧客情報の取得などが難しい欠点があります。また、基本的に出荷した農産物は、EC運営企業が買い取る形になるため、生産者としてのリスクが低い一方で、ECそのものに生産者が関与できるところはあまりないという特徴があります。
産直型ECは、手数料10〜20%程度で、自分で価格をつけて商品を出品・販売できる仕組みであり、集客や決済などはEC運営企業が実施してくれるため、気軽にECに取り組むことができます。産地直売所のオンライン版のようなイメージです。ただ、消費者向けに直接発送する必要があるため、小口での出荷対応が必須となります。
モール型ECの最大のメリットは、モール自体に多くのユーザーがいるため、強い集客力が期待できる点にあります。WEBサイトは自社で作成する必要がありますが、作成用のツールや素材を提供しているモールも少なくありません。また、モールにもよりますが、月額の固定費用と売上連動の手数料を取るところが多く、毎月発生する費用が高額になる可能性があります。その分、集客や決済をお任せしている部分があるので、収入も多くなりますが、支出も多くなる方式であると言えます。
今回、EC対応ノウハウの前半として、ECの種類を分類し、その特徴について整理してみました。
後半では、生産者の経営視点で、どのタイプのECを選択するべきかについて考えたいと思います。
当該コンテンツは、公益財団法人 流通経済研究所 農業・環境・地域部門 折笠主席研究員の分析に基づき作成されています。