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1. 家族経営は「儲かるように」なったら法人化
家族経営については、すべての経営を法人化する必要はありません。法人化をするかどうかの判断は、後継者に「継承すべき経営」かどうかで決まってきます。まず、儲からない経営は、後継者に継承する意味はありません。ほかにも、継承すべき経営かどうかは、継承すべき経営資源を持っているかどうかです。たとえば、面的に集積した農地があって継承できないと分散してしまうとか、多額の農業施設への投資をしているので継承できないと無駄になってしまうといったケースです。高い生産技術や農産物のブランドを持っているなど無形の資産も経営資源として重要な要素になります。
表1.法人化のメリット・デメリット
区分 | 項目 | メリット | デメリット |
---|---|---|---|
ヒト | 従業員 | 法人の看板が人材確保に威力 社会保険・労働保険の適用 |
社会保険等のコスト増 |
後継者 | 経営の継続性による後継者の確保 | 解散が困難 | |
取引先 | 取引成立・取引条件での法人の信用力 | ―― | |
モノ | 農地集積 | 経営の継続性による農地集積の維持 | 解散が困難 |
農地購入 | 農地中間管理機構による現物出資 | 出資買取りの個人出資者負担 | |
農地承継 | 贈与税納税猶予適用停止の可能性< | ||
カネ | 制度融資 | 融資枠の拡大 | 過剰投資の危険性 |
資金調達 | 出資の募集による資金調達 アグリビジネス投資育成(株)等の利用 |
過剰投資の危険性 | |
補助金 | 三戸以上共同法人による補助事業 | 共同経営による意思決定の遅延 | |
社会保険 | 報酬比例の厚生年金受給権獲得 | 年金保険料の負担増加 従業員保険料の負担 |
|
所得税 | 代表者報酬の給与所得控除による節税 | 法人住民税均等割の負担 | |
消費税 | 設立2事業年度の消費税免税 機械施設の譲受けによる消費税還付 |
事業譲渡に伴う消費税負担 | |
法人税 | 農業経営基盤強化準備金の積立による節税 肉用牛免税 |
役員給与の設定による所得税負担 | |
情報 | 交流 | 同一志向の経営者との交流 | 地域の一般農業者との意識の差 |
指導 | 法人協会等による情報提供 | ―― |
事業主の所得が多くなると、税務上は法人経営が有利になります。農業法人になると代表者には法人から役員報酬を支給することになります。個人事業では代表者の報酬は事業所得となりますが、法人からの役員報酬は給与所得となります。法人が支出した役員報酬は原則として全額が損金になる一方で、代表者が受け取った役員報酬からは給与所得控除が差し引かれます。このように、役員報酬については給与所得控除分に課税されないことが税制上の大きなメリットです。また、青色申告法人の場合、赤字(欠損金)を9年間に渡って繰り越すことができ、後の年度に生じた黒字(所得)から控除することができます。農業は、市況や作況の変動により年々の所得が不安定になりがちですが、所得が膨らんだ年度の納税額を欠損金の繰越控除により減少させることができます。
このように法人化した場合、税制上でも大きなメリットがあります。節税の観点からのみ法人化を考えることは望ましくありませんが、メリットの一つとしてこれを活用することも重要です。目安としては事業主の所得が年600万円を超えるかどうかです。ただし、事業専従者である家族従事者についても、その半分以上の専従者給与を支給していることが前提になります。なお、法人化すると所得税の負担が軽くなる半面、社会保険料の負担が増えることに注意する必要があります。
法人化すると赤字でも最低年7万円の法人住民税均等割が課税されます。したがって、月額30万円(年収360万円)程度の役員報酬を設定して黒字になるのでなければ、法人化のメリットはありません。なぜなら、役員報酬による給与所得控除額による所得税の減少額が、法人住民税均等割の7万円を上回らないと税金が少なくならないからです。年収360万円の場合、給与所得控除額が126万円になりますが、この場合、個人経営のときの青色申告特別控除額の65万円よりも所得控除額が61万円上回ります。これによる節税額は、所得税の税率が5%または10%、住民税の税率が10%となるため、合わせて10万円程度になります。
表2.給与所得控除額
収入金額 | 給与所得控除額 |
---|---|
180万円以下 180万円 180万円超360万円以下 360万円 360万円超660万円以下 660万円 660万円超1,000万円以下 1,000万円 1,000万円超 1,200万円超(28年分より)※ 1,500万円超(25年分より) |
収入金額 × 40%(65万円未満の場合は65万円) 72万円 収入金額 × 30% + 18万円 126万円 収入金額 × 20% + 54万円 186万円 収入金額 × 10% + 120万円 220万円 収入金額 × 5% + 170万円(※29年分より220万円) 230万円 245万円 |
※平成26年度税制改正による
白色申告の個人経営が法人化する場合には、給与所得控除額の最低額を下回らない限り、所得規模が小さくても法人化のメリットが生ずることになりますが、白色申告の場合には、まず、青色申告に切り替えて簿記記帳などの経営管理能力を向上させてから法人化する方が望ましいです。
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