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賃金改定
賃金改定は、通常、事業年度が変わるときに行われます。賃金改定には、通常、賃金制度より毎年賃金が増額する定期昇給、「昇進した」「結婚した」というような適格時昇給、経済の成長に伴い賃金水準そのものが引き上げられるベースアップがあります。昇給とベースアップの順序は、まず現行の賃金表に従い昇給を実施、その後、ベースアップに応じて賃金表の改定を行います。
定期昇給は、従業員の能力や勤務態度・経営状況などを総合的に判断し決定します。 農業の現場では「定期昇給」を実施している例は少数派です。農業を労働として見た場合、分業化が困難であり生産性の向上を図ることが難しい産業です。
また、農業は、生産量や売上高を伸ばし続けることが難しい産業ですから定期昇給は難しいのは実情です。しかし、個々の従業員はそれぞれ日々成長しています。入社1年目には5しかできなかった者も2年目には10できるようになっています。経営者はこの従業員の成長に対しては、定期昇給で応えなくてはなりません。
賃金改定の種類
昇給種類 | 定期昇給 | 適格時昇給 | ベースアップ | |
---|---|---|---|---|
年齢・勤続・習熟昇給 | 昇格・昇進昇給 | 支給条件発生時の昇給 | 経済成長 | |
昇給理由 | 年齢・勤続の上昇、能力・業績の伸びに応じた自動的な昇給 | 資格等級の昇格・職位の昇進時の昇給 | 扶養家族の増加などに伴い行う昇給(家族手当など) | 物価上昇、業績、世間相場、最低賃金改定 |
昇給時期 | 例)毎年4月 | 随時 | 例)最低賃金改定時 |
割増賃金
法定の割増率
労働基準法では法定労働時間を定めており、法定労働時間を超えて労働させた場合には、下表で定める割増率以上の割増賃金の支払いを義務づけています。
法定外労働時間の種類 | 割増率 |
---|---|
時間外労働(週40時間超又は1日8時間超) | 25%(時間外労働+深夜労働=50%) |
深夜労働(午後10時〜午前5時) | 25% |
休日労働(法定休日に勤務した場合) | 35%(休日労働+深夜労働=60%) |
※1か月60時間を超えて時間外に労働させた場合には、超えた部分については50%(中小企業については適用猶予中)
例えば、所定労働時間が1日7時間の事業場で9時間労働した場合、超過分の2時間のうち、法定労働時間(8時間)までの1時間については、法律上割増賃金を支給する必要はなく、通常の賃金(月給であれば基本給を月の所定労働時間で割った1時間当たりの賃金)の1時間分の支給でよく、残りの1時間について割増賃金を支給することになります。
なお、次の賃金は、割増賃金の基礎に算入しません。
①家族手当、②通勤手当、③別居手当、④子女教育手当、⑤住宅手当、⑥臨時に支払われた賃金、⑦1か月を超える期間ごとに支払われる賃金
農業と割増賃金
農業においては、労働基準法上、時間外労働や休日労働に対する割増賃金の適用除外となっています。ただし、たとえば所定労働時間が1日8時間の事業場で10時間労働した場合、超過分の2時間については、法律上割増賃金を支給する必要はありませんが、通常の賃金(月給であれば基本給を月の所定労働時間で割った1時間当たりの賃金)の2時間分の支給は当然必要です。
最近では、下記の理由等により割増賃金を支給する例は増えています。
イ 地域雇用の受け皿となるべく、他産業と同等の労働条件を確保するため
ロ 6次産業化を円滑に推進するうえで、全社一律の労働条件を確保する必要があるため
ハ 外国人技能実習生を受入れる事業場が増えているため(外国人技能実習生に対しては、割増賃金の支給が求められているため)
なお、農業においても深夜業割増は適用除外されていません。具体的には、午後10時か翌朝午前5時までの間において労働させた場合においては、2割5分増しの賃金を支給しなければなりません。
賃金表
賃金表とは、「この条件のときにいくらの賃金になる」という条件別の賃金額を表にしたものです。従業員にとっては「今は●円だけど、頑張って▼年後に主任になれれば◆円の賃金になる」という、将来の希望やモチベーションの維持・向上につながります。
賃金表を整備することは、従業員から見ると、生計費の増大に応じて一定の昇給が行われることで、生活設計が可能となり、生活の安定につながります。たとえ少しずつであっても毎年確実に昇給することに非常に大きな意味があります。
また、賃金表を公開することは、公正で透明な賃金制度の基本であることを肝に命ずる必要があります。従業員の賃金に対する不満は、その額もさることながらその額の決定方法の不透明さにあることも多いのです。賃金表は、賃金を公正に支給するために会社と従業員双方にとってなくてはならないものです。
通勤手当
通勤手当は、労働基準法等の法令で支給が義務づけられていないので、支給する、しないは使用者の自由です。一般的に、通勤手当は、徒歩や自転車で通える距離(概ね2㎞以内)であれば支給しません。
農業では、マイカーで通勤するケースが多く、通勤手当の額は、下表で示す非課税となる限度額の範囲内で支給するのが一般的です。
通勤距離(片道) | 1か月あたりの非課税となる限度額 |
---|---|
2km未満 | 全額課税 |
2km以上10km未満 | 4,200円 |
10km以上15km未満 | 7,100円 |
15km以上25km未満 | 12,900円 |
25km以上35km未満 | 18,700円 |
35km以上45km未満 | 24,400円 |
45km以上55km未満 | 28,000円 |
55km以上 | 31,600円 |
賞与
賞与は必ず支給しなければならないものではなく、支給する、しないは事業主の自由です。また、支給する場合の金額やその算定基準についても事業主が自由に決定することができます。
賞与が従業員にとって働く上での大きなモチベーションであることは間違いありませんが、賞与は、「支給して当たり前」「もらって当たり前」という時代ではありません。賞与は、「利益が出たときに支給するものである」という原則を貫くことが大切です。
利益という結果が伴わないのに支給してはいけません。従業員のやる気や生活を考えて、赤字でも賞与を支給する場合がありますが、賞与をもらえるのが当たり前だと思われると従業員に危機感がなくなるなどかえって逆効果です。
賞与の配分方法
かつての平準・一律化した支給から、近年、多くの企業が賞与に格差を設けています。「利益をもたらした者がより多くの利益を受けるのは当然」という考えのもと、賞与額の算定においては、役職係数、評価係数、出勤率等を用いて従業員の役職や責任に応じて差を設けるケースが一般的です。
賞与の計算方法の例
賞与額 = 基本給 × 一律係数 × 役職係数 × 職能係数 ×評価係数 × 出勤率
この計算方法の特徴は、計算が簡単なことです。また次のような利点があります。
- 一律係数や評価部分を増やすなどで業績対応や年功対応が可能になる。
- 対応する係数を増減することによって、重きを置く項目を変更することも可能である。
計算例
モデル/基本給:15万円、 役職:主任、 職能等級:3等級、 評価:B、出勤率:100%
各係数は下表のとおり
一律係数 | 役職係数 | 職能係数 | 評価係数 |
---|---|---|---|
1か月 | 部長、農場上、統括部長 : 1.4 | 5等級 : 1.3 | S : 1.4 |
課 長 : 1.3 | 4等級 : 1.2 | A : 1.2 | |
主 任 : 1.2 | 3等級 : 1.1 | B : 1.0 | |
中級社員 : 1.0 | 2等級 : 1.0 | C : 0.8 | |
初級社員 : 1.0 | 1等級 : 1.0 | D : 0.6 |
<賞与額>
15万円(基本給)×1か月(一律係数)×1.2(役職係数)×1.1(職能係数)×1.0(評価係数)×1.0(出勤率)
=198,000円
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