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労働時間とは
労働時間にかかわる賃金のトラブルが増えています。労働時間とは、「労働者が使用者に労務を提供し使用者の指揮命令に服している時間」と定義できるでしょう。たとえば使用者の拘束下にあっても労務の提供から解放されている休憩時間などは労働時間になりません。
また、使用者の指揮の下で作業に入った時間は当然労働時間ですが、その前後の付帯時間、例えば、作業服に着替えたり、掃除や整理・後片付けなど、作業時間に密接な時間がどこまで労働時間になるのでしょうか。これらの時間は、次の二つの要件が満たされる場合に労働時間と解されています。
イ その付帯作業が作業や業務にとって必要不可欠である。
ロ その付帯作業が労働者の自由裁量で行われるのではなく、使用者の指揮命令下で拘束された強制的に行われている。
農業では、従業員の集合場所(例えば事務所)と農作業の現場が物理的に離れている場合が多く、この場合にどこから(いつから)が労働時間となるか判断に悩むケースも見られます。
例えば、朝、事業主と労働者がともに事務所に集合し、ともに事務所を出発し現場に向かうのであれば、この事務所を出発する起点が「使用者の現実の指揮命令下にあり、労働者が自由に利用できない時間」である労働時間の起点と考えられます。圃場間の移動時間等の考え方も同様です。
したがって、拘束時間における労働時間とその他の時間、労働時間を整理すると下表のようになります。
拘束時間 | |||||
---|---|---|---|---|---|
労働時間 | 休憩時間 | 構内自由時間 | |||
就労のため使用者の指揮命令下にあり、自由に利用できない時間 | 労働時間の途中で労働から離れることが保障されている時間 | 労働時間の前後にある自由に利用できる時間 | |||
実作業時間 | 手待ち時間 | 準備時間 | 付帯時間 | ||
使用者の指揮命令下で実際に作業に従事している時間 | 使用者の指揮命令下にあって、作業のために待機している時間 | 使用者の指揮命令下で行われる作業に必要不可欠な準備時間 | 使用者の指揮命令下にあって、労働に必要不可欠な付帯作業時間 | ||
賃金の支払い義務あり | 賃金の支払い義務なし |
法定労働時間
労働基準法では、法定労働時間を次のように定めています。
- 休憩時間を除き1週間について40時間を超えて、労働させてはならない
- 1週間の各日については、休憩時間を除き、1日について8時間を超えて、労働させてはならない
ただし、次の業種(常時10人未満の労働者を使用する場合に限る)については例外扱いとなっており、法定労働時間は、1週間44時間、1日8時間としています。
- 商業
- 映画・演劇業(映画の製作の事業を除く)
- 保健衛生業
- 接客娯楽業
労働時間の把握の義務
使用者には、社員の労働時間を適正に把握する義務があります。具体的には、使用者は労働時間の把握について次のことをする義務を負っています。
- 労働日ごとに始業時刻や終業時刻を確認・記録する
- これを基に何時間働いたかを把握・確定する
始業、終業時刻の確認及び記録の原則的な方法
原則的に次のいずれかの方法によることとされています。
- 使用者が自ら直接始業時刻や終業時刻を確認し、記録する
- タイムカード、ICカード等の客観的な記録を基礎として確認し、記録する
労働時間の把握を労働者の自己申告制による場合
自己申告制により始業・終業時刻の確認及び記録を行わざるを得ない場合、使用者は、次の措置を講ずる必要があります。
- 自己申告制を導入する前に、その対象となる労働者に対して、労働時間の実態を正しく記録し、適正に自己申告を行うことなどについて十分な説明を行うこと
- 自己申告により把握した労働時間が実際の労働時間と合致しているか否かについて、必要に応じて実態調査を実施すること
- 労働者の労働時間の適正な申告を阻害する目的で時間外労働時間数の上限を設定するなどの措置をしないこと
- 時間外労働時間の削減のための社内通達や時間外労働手当の定額払等労働時間に係る事業場の措置が、労働者の労働時間の適正な申告を阻害する要因となっていないかについて確認するとともに、当該要因となっている場合においては、改善のための措置をすること
過重労働による健康障害を防ぐためにしなければならないこと
過重労働による健康障害の防止のためには、健康診断等の健康管理の措置を実施し、時間外労働をできるだけ短くすることが重要です。
時間外労働が月45時間を超えたら
事業主は産業医から事業場での健康管理について助言指導を受ける必要があります。
時間外労働が月100時間または2〜6ヵ月平均で月80時間を超えると業務と脳・心臓疾患の発症との関連性が強いと判断されます。
労働安全衛生法で、脳・心臓疾患の発症を予防するため、長時間労働により疲労の蓄積した労働者に対し、事業者は医師による面接指導を実施することが義務づけられています。
事業場外労働のみなし労働時間制
事業場外労働のみなし労働時間制とは、従業員が業務の全部又は一部を事業場外で従事し、使用者の指揮監督が及ばないために、当該業務に係る労働時間の算定が困難な場合に、使用者のその労働時間に係る算定義務を免除し、その事業場外労働については「特定の時間(例えば所定労働時間)」を労働したとみなすことのできる制度です。
対象となる業務
事業場外労働のみなし労働時間制の対象となる業務は、事業場外で業務に従事し、使用者の具体的な指揮監督が及ばず、そのために労働時間の算定が困難な業務です。ここでいう事業場外で業務に従事した場合とは、外勤・外交・外務労働を意味しており、いわゆる「屋外労働」ということを意味するものではありません。
たとえば、建設工事現場や伐木造林等の林業現場などは屋外労働であっても、当該工事現場や林業現場も一つの適用事業所されており、そこでの労働は法律上「指揮監督下にある事業場内」労働であり、ここでいう事業場外の業務にはあたりません。
事業場外で従事する場合であっても、次のようなケースのように使用者の指揮監督が及んでいる場合は、労働時間の算定が可能であるため、みなし労働時間制の適用はできません。
- 何人かのグループで事業場外労働に従事する場合で、そのメンバーの中に労働時間の管理をする者がいる場合
- 携帯電話等によって随時使用者の指示を受けながら労働している場合
- 事業場において、訪問先、帰社時刻等当日の業務の具体的指示を受けた後、指示どおりに業務に従事し、その後、事業場に戻る場合
事業場外労働のみなし労働時間制における労働時間の算定方法
事業場外の業務に従事した場合における労働時間の算定には、次の3つ場合があります。
- 所定労働時間
- 事業場外の労働をするためには、通常所定労働時間を超えて労働することが必要である場合には、その業務の遂行に通常必要とされる時間
- 2 の場合で、労使協定が締結されているときは、その協定により事業場の業務の遂行に通常必要とする時間として定めている時間
ただし、2 及び 3 の方法による場合は事業場外労働に該当する部分のみなしであり、労働時間の一部を事業場内で労働した場合には、その時間については別途把握しなければなりません。
当該コンテンツは、「キリン社会保険労務士事務所」の分析・調査に基づき作成されております。