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専門業務型裁量労働制
専門業務型裁量労働制とは、業務の性質上、遂行の手段や方法・時間配分等を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要があるため、その業務を行う手段や時間配分の決定などについて使用者が具体的な指示をすることが困難な業務として厚生労働令などにより定められた19業務の中から、対象となる業務や1日当たりの時間数などを労使協定で定め、社員を実際にその業務に就かせた場合、労使協定であらかじめ定めた時間働いたものとみなす制度です。
対象となる業務
専門業務型裁量労働制を採用することができるのは、次の19業務です。
- 新商品、新技術の研究開発などの業務
- 情報処理システムの分析、設計の業務
- 新聞・出版・放送番組等の取材、編集の業務
- 衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案の業務
- 放送番組・映画等のプロデューサーまたはディレクターの業務
- コピーライターの業務
- システムコンサルタントの業務
- インテリアコーディネーターの業務
- ゲーム用ソフトウェアの創作の業務
- 証券アナリストの業務
- 金融商品の開発の業務
- 大学における教授研究の業務
- 公認会計士の業務
- 弁護士の業務
- 建築士の業務
- 不動産鑑定士の業務
- 弁理士の業務
- 税理士の業務
- 中小企業診断士の業務
導入要件
制度の導入に当たっては、次の1から8の事項を労使協定により定めた上で、所轄労働基準監督署長に届け出ることが必要です。
- 対象業務(上で挙げた19業務に限る。)
- みなし時間(対象業務に従事する労働者の労働時間として算定される時間)
- 対象業務を遂行する手段・方法・時間配分等に関し、労働者に具体的な指示をしないこと
- 対象となる労働者の労働時間の状況に応じて実施する「健康・福祉を確保するための措置」の具体的内容
- 対象となる労働者からの苦情の処理のため実施する措置の具体的内容
- 有効期間(3年以内とすることが望ましい。)
- 4及び5に関し労働者ごとに講じた措置の記録を協定の有効期間中及びその期間の満了後3年間保存すること
- 時間外労働・休日労働・深夜労働(任意事項)
変形労働時間制
変形労働時間制とは、労働の繁閑の差を利用して休日を増やすなど、労働時間の柔軟性を高めることで、効率的に働くことを目的とする制度です。使用者は、労働者に法定労働時間である1週40時間、1日8時間を越えて労働させた場合は、法律で定められた割増賃金を支払わねばなりません。
変形労働時間制は、労働基準法で定められた手続を行えば、その認められた期間においては、法定労働時間を越えて働いた場合でも、この期間内の平均労働時間が法定労働時間を越えていなければ、割増賃金の対象として扱わないとする制度です。
仕事内容等に応じて「1ヶ月単位」「1年単位」「1週間単位」「フレックスタイム制」があります。
たとえば、「1年単位の変形労働時間制」は、夏のお中元の季節や冬のお歳暮の季節はすごく忙しくて反対にあまり忙しくない季節があるデパートや季節によって繁閑の差が大きいリゾート地のホテル等で利用されることが多く、農業においても他産業並みの所定労働時間を設定している法人等で導入しているケースもあります。
1年単位の変形労働時間制導入のポイント
- 労使協定による定めが必要
- 手続き上絶対に必要なこと①労使協定、②労使協定の管轄監督署長への届出(個別の雇用契約で定めるは不可)
- 就業規則の作成義務のない常時10人に満たない事業所は、就業規則での周知の必要はない
- 期間中の全日につき、労働日、所定労働時間、休日を具体的に特定するのが原則
- 最初の期間における①労働日、②各労働日ごとの労働時間は、労使協定締結時に特定しておかなければならない
- 各期間の労働日と労働日ごとの労働時間については、その期間の始まる少なくとも30日前に労働組合(労働組合がない場合には労働者の過半数を代表する者)の同意を得て、書面により定めなければならない
- 所定労働時間に上限あり
- 1日10時間、1週52時間
- 連続労働日数は、6日
- 48時間を超える週は連続3週間以下(変形対象期間が3ヵ月を超える場合)
- 3ヵ月毎に区分した各期間において48時間を超える週は3週以下であること
- 変形期間の総所定時間は、週平均40時間以内でなければならない
- 法定外残業については、1日及び1週毎と全期間の3段階でチェックされる
- 三六協定の基準時間は、1ヶ月42時間、1年320時間である
- 原則として一度特定した労働日、所定時間は変更できない。
1年単位の変形労働時間制の総労働時間と所定労働日数
対象期間(その期間を平均し1週間当たりの労働時間が40時間を超えない範囲内において労働させる期間)が1年の場合の総労働時間は次の計算によります。
40時間 ×(365日÷7日)= 2085.7時間
1年間の総労働時間を1日の所定労働時間で割り、年間の所定労働日数を出します。1日の所定労働時間が8時間の場合の年間の所定労働日数は次のようになります。
2085.7時間 ÷ 8時間 = 260.7日 ≒ 260日
1年単位の変形労働時間制の時間外労働の算出方法
【A:1日についての計算】
- 所定労働時間が8時間を超える日の場合は、その『所定労働時間を超えて』労働した場合
例:1日の所定労働時間が8時間30分の日に9時間30分働いた場合
9時間30分-8時間30分=1時間 - 所定労働時間が8時間より少ない日の場合は、1日『8時間を超えて』労働した場合
例:1日の所定労働時間が7時間00分の日に9時間40分働いた場合
9時間40分-8時間=1時間40分
【B:1週についての計算】
- 所定労働時間が週40時間を超える週の場合は、その『週所定労働時間を超えて』労働した時間(ただし、Aで1日ごとの時間外労働とされた時間は除いて計算)
例:週所定労働時間が43時間00分の週に45時間00分働いた場合
45時間00分-43時間00分=2時間
その中に1日ごとの時間外労働となる時間が1時間ある場合は、
2時間-1時間=1時間 - 所定労働時間が週40時間より少ない週の場合は、『週40時間を超えて』労働した時間
(ただし、Aで1日ごとの時間外労働とされた時間は除いて計算)
例:週所定労働時間が33時間00分の週に45時間00分働いた場合
45時間00分-40時間=5時間
その中に1日ごとの時間外労働となる時間が2時間ある場合は、
5時間-2時間=3時間
【C:対象期間についての計算】
- 「対象期間における法定労働時間の総枠」を超えて労働した時間
(AとBで時間外労働とされた時間は除いて計算) - この時間は,1日ごとの時間外労働または1週ごとの時間外労働にならなくても、対象期間を通じてみれば時間労働になる時間となります。対象期間を通じて総実労働時間数が法定労働時間の総枠を超えるときに,この時間は時間外労働になります。
- 「対象期間における法定労働時間の総枠」とは
40時間×変形期間の暦日数÷7日となります。
例:対象期間1年(365日)=2085時間42分
- 「対象期間における法定労働時間の総枠」とは
【時間外労働になる時間数合計は】
A+B+C=対象期間において時間外労働となる時間数合計となります。
【割増賃金の支払時期】
割増賃金の支払時期は、時間外労働の計算には上記したような方法をとるため、A、Bは毎月、Cは対象期間終了ごとに、支払期日が到来することになります。
したがって、対象期間が1年の場合は1年終了して確定することになります。
【留意点】
対象期間の中途で退職する者、中途で採用された者については、対象期間終了時点において、次の計算式によって、割増賃金の支払が必要となることがあります。
(実労働期間における実労働時間※)―(割増賃金の支払を要する時間)―(40時間×実労働期間の暦日数÷7日)
※実労働時間とは、1年単位の変形労働時間により労働させた期間
当該コンテンツは、「キリン社会保険労務士事務所」の分析・調査に基づき作成されております。