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就業規則とは
就業規則は、常時労働者が10人以上いる事業場が作成を義務付けられています。就業規則とは、事業場で働く労働者の具体的な労働条件や守らなければならない規則のことをいいます。
忙しい時だけ10人以上になる場合は該当しませんが、逆に一時的に9人以下になっても、パートタイマーやアルバイトも含めて大体労働者が10人以上いる事業場であれば、作成と労働者の意見聴取及び所轄労働基準監督署長への届出が義務づけられています。
常時10人以上を使用していない使用者は、労働基準法上は、就業規則を作成する義務を負っていませんが、作成することは当然できますし、むしろ作成した方が望ましいと思われます。また、就業規則は労働者にいつでも自由に閲覧できるようにしておかなければなりません。事業場で働く者みんなに守ってもらうために作成するわけですから当然のことです。
就業規則に記載しなければいけないこと
就業規則には、必ず記載しなければならない事項と定めがある場合には記載義務のある事項があります。就業規則には、どんなことを記載してもよいというわけではありません。
就業規則に記載できることは、内容によって3種類に分けられます。
必ず記載しなければならない事項(絶対的必要記載事項)
- 始業・終業の時刻、休憩時間、休日、休暇、交替就業の場合の就業時転換に関する事項
- 賃金の決定、計算、支払の方法、賃金の締切、支払の時期、昇給等賃金に関する事項
- 退職(解雇の事由、定年制等)に関する事項
定める場合には、記載しなければならない事項(相対的必要記載事項)
- 退職手当について、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算、支払方法、支払時期に関する事項
- 臨時の賃金等(退職手当を除く)及び最低賃金額に関する事項
- 労働者に負担させる食費、作業用品等に関する事項
- 安全及び衛生に関する事項
- 職業訓練に関する事項
- 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
- 表彰及び制裁に関する事項
- その他、当該事業場の労働者のすべてに適用される定めについての事項
記載するかどうか自由な事項(任意的記載事項)
- 服務規律・指揮命令・誠実勤務・守秘義務等に関する事項
- 人事異動(配転・転勤・出向・転籍・業務派遣等)に関する事項
- 社員体系、職務区分、職制に関する事項
- 施設管理、企業秩序維持・信用保持等に関する事項
- 競業禁止・退職後の競業制限等に関する事項
- 能率の維持向上その他の協力関係に関する事項
- 職務発明の取扱いと相当な対価に関する事項
就業規則を作成する上でのポイント
就業規則を作成する上でとくに重要なポイントをとりあげてみます。
どんな要領で作成するのか
就業規則は会社の経営状態の実情にそって決めるべきです。そのプロセスは次のようになります。
- 自己の企業で実施している服務規律や労働条件、あるいは賃金の支払方法等の諸制度や慣行を箇条書に整理してみる。
- その中から就業規則に記載しなければならない事項や、記載した方が良いと思われる事項を選び出し、就業規則要綱案を作ってみる。
- この要綱案に列挙された事項と、法律上記載しなければならない事項と比較して、記載洩れがないかどうか検討する。
- 法令や労働協約がある場合には、それに違反していないか検討する。
- これを機会に労務管理全般の検討をする。
試用期間の設定
試用期間については労働基準法等法律で定められた規定はなく、設ける、設けないは経営者の自由です。試用期間は、本人の適正や勤務態度等を観察するために設けますが、従業員にとっては本採用前の身分が不安定な期間なので、あまり長期間に設定するのは好ましくなく、通常1か月から6か月程度の期間で設けます。
なお、「試用期間中は本採用前だから」という理由で雇用保険や社会保険(健康保険・厚生年金保険)の資格取得手続きを本採用まで引き延ばすことは許されません。労働保険及び社会保険は、入社時より加入することが義務づけられています。
パートタイム労働者等の非正社員の就業規則の作成
正社員の就業規則は備え付けられているが、パートタイム労働者等の非正社員の就業規則が作成されていない場合、正社員の就業規則が唯一の就業規則となり、パートタイム労働者等については個別労働契約による旨の取り決めをしていても、「就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。
この場合において無効となった部分は、就業規則で定める基準による(労働契約法12条)」として、正社員の就業規則が適用されてしまう可能性があります。
したがって、勤務条件や待遇の違いをあらかじめ明確にしておくためにも、たとえば、「パートタイム就業規則」等の非正社員に対する就業規則を作成しておくことが重要です。
制裁規定の検討
制裁に関する事項は「定める場合には、記載しなければならない事項(相対的必要記載事項)」ですが、制裁規定が会社が従業員に対して制裁処分を行う際の根拠となるものですので非常に重要な事項です。
会社は就業規則で挙げた「制裁の対象となるうる事由」以外の事由で従業員に対して制裁処分をすることはできません。したがって、従業員がどのようなことをした場合にどのような制裁処分の対象になるのか就業規則に具体的に記載しておく必要があります。
休職に関する規定の検討
休職は、業務以外の傷病や、公職への就任、会社都合による出向等の事由により、従業員が長期にわたって就労できなくなる場合の人事措置をいいます。とくに最近の傾向として、従業員が業務外の傷病により長期にわたり就労できない状態となるケースが増えていますので、「休職」の規定を用意しておくことが非常に重要になってきています。
セクシャルハラスメントの禁止
セクシャルハラスメントに関する事項は、就業規則の必要記載事項ではありませんが、男女雇用機会均等法で就業規則等で従業員に周知するよう義務付けられています。
パワーハラスメントの禁止
職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性(上司から部下に行われるものだけでなく、先輩・後輩間や同僚間などの様々な優位性を背景に行われるものも含まれる)を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいいます。
農業の現場でも、事業主のパワハラ問題を耳にすることは年々増えており、改正労働施策総合推進法により大企業では令和2年6月から、中小企業においても令和4年4月から、パワハラ防止措置が事業主の義務となりましたので、就業規則に規定する必要があります。
就業規則の作成・届出の方法
就業規則の作成から届出の手順は次のように定められています。
- 使用者の方で就業規則を作成する。就業規則は使用者が一方的に作成することができるが、労働基準法を下回る労働条件で定めることができない。
- 労働者の過半数代表者(当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合(当該労働組合がない場合は労働者の過半数代表者)に内容を確認してもらい、意見書を作成してもらう。
- 正式に就業規則を決定する。
- 労働者の過半数代表者の署名または記名押印のある意見書を添付のうえ、所轄労働基準監督署長に提出する。ただし、常時10人以上の労働者のいない事業場は届出義務はない。
- 労働者の意見を聴いたことが客観的に証明されればよく、反対意見書でも構わない。
就業規則の労働者への周知の方法
就業規則は労働者に必ず周知させなければなりません。労働者への周知には次の方法があります。
イ 常時各作業場の見やすい場所に提示し、または備え付ける方法
ロ 労働者に書面を交付する方法
ハ 磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者がその内容を常時確認できる機器を設置する方法
なお、「周知されている」という状態は、従業員が就業規則を見たい時に見ることができる状態にあることを言います。
就業規則と別規則
就業規則の記載事項のうち、必要あるものについては、別規則とすることが認められています。別規則も就業規則の一部であるため、別規則を設けたときや内容を変更したときも、所轄所労働基準監督署長への届出は必要です。
一般的な別規則としては、次のようなものがあります。
- 賃金規程
- 退職金規程
- 育児・介護休業規程
- 個人情報保護規程
- 慶弔見舞金規程
- 出張旅費規定
就業規則の変更方法
使用者が一方的に就業規則を変更しても、労働者の不利益に労働条件を変更することはできません。使用者が就業規則の変更によって労働条件を変更する場合には、次の①及び②の要件を満たすことが必要です。
- その変更が、以下の事情などに照らして合理的であること
イ 労働者の受ける不利益の程度
ロ 労働条件の変更の必要性
ハ 変更後の就業規則の内容の相当性
ニ 労働組合等との交渉の状況 - 労働者に変更後の就業規則を周知させること
農業の就業規則
「労働時間・休憩・休日」で述べたように、農業は労働基準法の労働時間、休憩、休日が適用除外です。適用除外を理由として労働時間や休憩等で他産業に劣る労働条件でよいはずはありませんが、現実問題として農業には農繁期や農閑期等の他産業にない特殊性があるため、このような農業労働の特殊性に柔軟に対応した就業規則を作成する必要があります。
当該コンテンツは、「キリン社会保険労務士事務所」の分析・調査に基づき作成されております。