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退職金制度は必要か
退職金制度は、日本的雇用の特徴の一つと言われる終身雇用を支える制度として、多くの企業が導入していました。しかし、1990年代初めのバブル崩壊以降、企業業績の悪化や会計制度の変更に伴い退職金制度を廃止したり、また、新しく会社を起こしても退職金制度を導入しないケースが増えています。
たしかに「退職金制度があるから」という理由で企業に入社する者は少ないかもしれませんが、初めから長期間勤めるつもりのない従業員は別として、一般的に退職金は、やはり従業員にとって魅力ある制度であることに違いありません。
ただし、退職金制度は、一度導入すると「社員との契約事項」となりますので、後になって簡単に「やっぱりやめた」というわけにはいきません。導入に際しては十分な検討が必要です。
それでは、どの程度の農業法人が退職金制度を導入しているかというと、「農業法人等における雇用に関する調査結果」(平成22年度版/全国新規就農相談センター(全国農業会議所))によると、退職金制度を定めているは、1863回答のうち536(28.8%)と3割程度と思われます。
退職金額の水準は
農業法人の退職金額の水準は、資料も少なく、はっきりといくらと言えないのが実情です。ただし、農業法人の多くが中小企業退職金共済制度(以下「中退共」)を利用しているので、中退共に加入されているケースから大まかな予想は可能です。中退共の平均的な掛金は1万円(月額)であり、この場合に勤続40年で約600万円となりますのでおおよそこの程度かと想像できます。
退職金制度のあり方〜月例賃金(基本給)との分離
退職金制度の設計を考えるときには、月例賃金(基本給)と連動した仕組みは避けるようにします。月例賃金と分離すれば、賃上げとも切り離されるので、自動的に退職金が増えるのも防ぐことができます。また、退職金の増加を抑える目的で、無理に諸手当を厚くして賃金体系を歪めることもなくなります。
ポイント制退職金
かつての退職金制度は、いわば年功賃金の最たるものでした。近年の退職金制度は、能力要素、業績要素をより重視した仕組みに移行しています。功労報奨機能の強化です。
しかし、今日的な退職一時金制度は、基本給、賃上げと切り離し、年功要素だけでなく、能力要素、業績要素を反映する制度となっています。代表的な退職金制度が、ポイント制退職金です。
ポイント制退職金は、従業員の勤務期間における各1年間であらかじめ設定された評価ポイントを付加し、これを累積したものを退職金額算定基礎額として、これにポイント単価(及び退職事由別係数)を掛け合わせたものを退職金支給額とするものです。
ポイント制退職金の例
- 計算方法
(①勤続ポイント+②職能ポイントの累積)×③ポイント単価×④退職事由別支給係数
- 勤続ポイント
勤続年数 ポイント 勤続年数 ポイント 勤続年数 ポイント 0年〜2年 5点 11年〜15年 15点 26年〜30年 30点 3年〜5年 8点 16年〜20年 20点 31年〜35年 35点 6年〜10年 10点 21年〜25年 25点 36年〜40年 40点 - 職能ポイント
職能等級 モデル滞留年数 ポイント(1年につき) 1等級 4年 5点 2等級 8年 10点 3等級 8年 15点 4等級 8年 20点 5等級 15年 25点 - ポイント単価
14,000円 - 退職事由別支給係数
勤続年数 事由別支給係数 勤続年数 事由別支給係数 会社都合 自己都合 会社都合 自己都合 0年 1.0 0.5 15年 1.0 0.8 3年 1.0 0.5 20年 1.0 0.9 5年 1.0 0.6 25年 1.0 1.0 10年 1.0 0.7 30年 1.0 1.0
ポイント制退職金の具体例
具体例① 勤続10年、自己都合退職、退職時職能等級2等級(1等級4年、2等級6年)
- 勤続ポイント:10点
- 累積職能ポイント:80点(5点×4年+10点×6年)
- (10点+80点)×14,000円×0.7(事由別支給係数)=882,000円
具体例② 勤続20年、自己都合退職、退職時職能等級3等級(1等級4年、2等級8年、3等級8年)
- 勤続ポイント:20点
- 累積職能ポイント:220点(5点×4年+10点×8年+15点×8年)
- (20点+220点)×14,000円×0.9(事由別支給係数)=3,024,000円
ポイント制退職金のメリット
イ 本給と切り離したポイント単価で退職金が決まるという点に加えて、能力・資格等級ポイントなどを設けることによって勤続年数だけでない能力・業績が「点」ではなく、「線」で退職金に反映されやすくなる。
ロ 例えば、年俸制を導入する場合にも、計算基礎額が基本給と分離しているので取り入れやすく、給付水準の変更がポイント単価の再設定だけで容易にできる。
ハ 中途採用者で能力の高い社員が退職金で不利にならない。
ポイント制のデメリット
イ 導入する場合にかなり専門的なスキルが要求される。
ロ メンテナンスについても個々の社員ごとにポイントを管理していかなければならない煩雑さがある。
ポイント制退職金の導入条件
ポイント制退職金を導入するに当たっては、職能等級制度が導入され、しかもその昇格運用が能力主義化されている必要があります。昇格運用が年功的では、従来の年功的退職金と何ら変わらないことになってしまうからです。
中小企業退職金共済制度
中小企業退職金共済制度(以下「中退共制度」)は、中小企業者向けに国が援助する退職金制度です。
中退共制度は、「よくわかる中小企業退職金共済制度」(独立行政法人勤労者退職金共済機構)によると約36万2千企業(平成27年1月時点)と多くの中小企業が利用しています。 退職金は、長期的な準備・運用が必要になりますが、中退共は管理が容易であり、その点は大きなメリットです。その他にも中退共には、以下のイ〜ホの様々なメリットがあります。
なお、デメリットについては、
- 掛け金が最低5,000円からで、掛け金を減額することは困難
- 1年未満で退職すると退職金は支給されない
などがあげられますが、従業員の長期定着を考慮すれば、大きなデメリットともいえないでしょう。
イ 掛金の助成がある
新しく中退共制度に加入する事業主に掛金の1/2(上限5,000円)を1年間、国が助成します。また、掛金月額(18,000円以下)を増額する事業主に増額分の1/3を1年間、国が助成します。
ロ 税法上の特典がある
中退共制度の掛金は、法人企業の場合は損金として、個人企業の場合は必要経費として、全額非課税となります。
ハ 毎月の掛金は口座振替で保全措置の心配も不要
加入後も面倒な手続きや事務処理がなく、管理が簡単です。また、掛金は口座振替で納付できるので手間もかかりません。また、本制度に加入している事業主は「賃金の支払の確保等に関する法律」に基づく「退職手当の保全措置」をとる必要はありません。
ニ 退職金は直接従業員へ
退職金は直接、退職する従業員の預金口座に振り込まれます。一時払いのほか、本人の希望により全部または一部を分割して受け取ることもできます。
ホ 掛金の選択ができます
- 毎月の掛金月額は下記の16種類から選択できます。
- 掛金は全額事業主が負担し、従業員に負担させることはできません。
- 新しく制度に加入する事業主に掛金の1/2(上限5,000円)を加入後4ヶ月目から1年間、国が助成します。
5,000円 | 6,000円 | 7,000円 | 8,000円 |
9,000円 | 10,000円 | 12,000円 | 14,000円 |
16,000円 | 18,000円 | 20,000円 | 22,000円 |
24,000円 | 26,000円 | 28,000円 | 30,000円 |
※短時間労働者は上記の掛金月額の他に次の掛金月額でも加入できます。
(この場合には、加入申し込みの際に、短時間労働者であることの証明書が必要です。)
2,000円 | 3,000円 | 4,000円 |
問い合わせ先
中小企業退職金共済事業本部
〒170-8055 東京都豊島区東池袋1丁目24番1号 ニッセイ池袋ビル TEL(03)6907-1234
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