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給与制度
あらためて給与制度とはいったい何でしょうか。労働者にとって賃金は、生活の糧であり、働くうえでの基本です。給与制度とは、その賃金をどうやって組み立てているのか、どうやって昇給させるのか、等といったその賃金の「からくり」といってもいいでしょう。
あいまいな給与制度から脱皮を
従来は、年齢や学歴、勤続年数、性別などを考慮して、経営者のカンにより賃金が決定されてきたと思われます。このように賃金額の根拠が明確でない職場では、不信感を理由に労使間でトラブルが生じていたり、定着率が低いといった問題を抱え込んでいることが多いものです。また、仕事のできる従業員のやる気を削いでいる可能性も高いでしょう。
そこで「職能給制度」の導入を検討してください。職能資格制度と職能給の構築によって、仕事や責任等と賃金との関連における、曖昧さ、不整合性や中途採用者の格付けの困難さといった、従来の問題点を解決することができます。
職務給制度と職能給制度
多くの農業の現場で、子育て等で一番お金のかかる40〜50代の農業就業者に必要な賃金が支給されていません。今はまだ20代の独り者でも、いずれは所帯をもち、子育て等に相当な費用を必要とする年齢になります。これからの雇用型農業には、従業員が安心して働き続けることを可能にする賃金制度の構築が必要となります。
賃金制度には大きく分けて「職務給制度」と「職能給制度」があります。職務給も職能給も「属人給(労働者の年齢、勤続年数、学歴等の属性を基準にして決定する賃金)」ではない「仕事給(従事する仕事の種類・内容、職務遂行能力を基準にして決定する賃金)」で、一長一短があります。
職務給とは仕事の「価値」を基準として決定する賃金です。
一方、職能給は、職務を遂行する「能力」を基準として決定する賃金です。この「職務遂行能力」により賃金等を決定する人事制度を「職能資格制度」といいます。
日本では、企業内で配置転換が多く、常に同一労働に就いていることがないため、「職務給」を導入しているケースは少なく、反対にどの職種に就いても本人の能力だけの問題であり賃金体系を変更することのない「職能給」が日本に適した賃金制度として主流となっています。基礎知識で説明する賃金制度も、職能給制度です。
職務給と職能給の違い
職務給 | 職能給 | |
---|---|---|
基準 | 仕事の価値 | 職務遂行能力の高さ、広がり |
昇格/任用 | 上位レベルの仕事、下位レベルの仕事への変更は会社が任命する。 | 能力の高まり、広がりが基準を満たせば昇格。 降格は原則としてない。 |
長所 | 仕事の価値を直接賃金に反映できる。 属人的要素を排除した公平な賃金である。 |
従業員の能力開発のインセンティブになる。 従業員の異動・配置の柔軟性を確保できる。 |
短所 | 従業員の異動・配置が固定的になる。 職務評価が難しい。 |
年功的運用になりやすい。 高資格者が必ずしも高業績者とならない。 |
職能資格制度
職能資格制度とは、職務遂行能力により従業員の社内序列を決定するもので、人事や賃金等すべての管理に適用されます。職能給制度を導入する場合は、まず「職能資格制度」を構築することになります。
職能基準・資格要件の設計
職能資格制度は、従業員を等級により序列化するものです。したがって、それぞれの職能等級の基準を作成することになります。
例えば、従業員の序列が、①初級社員、②中級社員、③主任、④課長、⑤部長、農場長、統括部長の5段階から成っていて、それぞれの資格要件や職務遂行能力が明確になっている場合には、それを職能基準とします。したがって、この場合の職能等級は5等級に分けることになります。
従業員の等級判断のしかた
誰をどの等級に位置付けるか、それぞれの従業員の能力をとらえる方法としては、
イ 職能基準に当てはまる能力を有しているかできるだけ客観的に観察する
ロ その等級に当てはまるだけの経験年数や求める資格、実技能力を有しているか
等で判断します。また、昇格の要件として面接や筆記試験等を用意することも検討します。
職能等級基準の例
等級 | 職能基準 |
---|---|
1 | 担当業務に関して、定型業務が処理できる程度の知識・技術・技能を有している。 |
2 | 担当業務に関して、非定型業務や複雑な判断を必要とする業務を処理することができる。 |
3 | 担当業務に関する専門的知識を有する。上司の指示のもとに部下を指導して組織をまとめながら担当業務を遂行することができる。 |
4 | 会社全般に関する知識、担当業務および関連領域の高度な専門的知識を有する。 管理職として会社の部門方針・目標に基づき、担当組織の方針・目標を設定し、関係先と必要な調整を行い、教育統率して組織の力を発揮させ担当業務を遂行できる。 |
5 | 経営に関する知識、担当業務及び関連領域の広範かつ高度な専門知識を有する。組織の責任者として、社長方針・目標に基づき、組織の方針・目標を設定し、関連会社他社内外関係先と必要な調整を行い、下位者を統括して組織の力を発揮させ、担当業務を遂行できる。 |
職能等級の資格要件等の例
等級 | 初任格付 | 昇格基準 | 資格要件 | 対応職位 |
---|---|---|---|---|
1 | 高卒、短大卒、中途採用 | 日本農業技術検定3級以上 | 初級社員 | |
2 | 大学卒、中途採用 | 勤続 | 日本農業技術検定2級以上 | 中級社員 |
3 | 中途採用 | 能力・勤続 | 主任 | |
4 | 能力・勤続 | 日本農業技術検定1級 | 課長 | |
5 | 実績 | 部長、農場長、統括部長 |
当該コンテンツは、「キリン社会保険労務士事務所」の分析・調査に基づき作成されております。