更新日
技能実習生と労働基準法
外国人も日本国内で就労する限り、原則として労働関係法令の適用があります。具体的には、労働基準法、労働契約法、労働安全衛生法、最低賃金法、労働・社会保険等については、外国人についても日本人と同様に適用されます。
たとえば、労働基準法第3条は、労働条件面での国籍による差別を禁止しているため、外国人であることを理由に低賃金で雇用することは許されません。技能実習生は外国人労働者に含まれるとしているので、技能実習生には、労働基準法、労働安全衛生法、最低賃金法、労働者災害補償保険法等の労働者に係わる諸法令が適用されます。
農業労働は、気候や天候等に大きく左右されるというその特殊性から、労働基準法の労働時間・休憩・休日等に関する規定については適用除外とされています。
しかし、技能実習制度においては、他産業との均衡を図る意味から、①労働時間関係を除く労働条件について労働基準法を遵守すること、②労働基準法の適用がない労働時間関係の労働条件について、基本的に労働基準法の規定に準拠すること、とされています。(「農業分野における技能実習移行に伴う留意事項について(平成12年3月:農林水産省農村振興局地域振興課)」、「農業分野における技能実習生の労働条件の確保について(平成25年3月:農林水産省経営局就農・女性課長」)
このことは、農業の技能実習制度の大きな特徴であり、当制度の導入を検討する際には十分留意する必要があります。
- 外国人技能実習生は、労働基準法の適用を受ける
- 農業は労働時間関係が労働基準法上適用除外だが、外国人技能実習生は労働時間関係も労働基準法に準拠しなければならない
日本人と同等以上の賃金
労働基準法は、賃金、労働時間その他の労働条件について国籍等による差別的取扱いを禁じています(労働基準法3条)。したがって、受け入れ農業法人等に日本人の従業員がいる場合は、技能実習生に対して、日本人と同等以上の賃金を支給しなければなりません。
また、賃金を月給で払うか、または日給や時給で払うかなど、賃金をどのような形態にするかの選択は、従業員の働きをどのような時間単位で測ったら適当なのかという考え方によって異なってきます。
一般的には、パートタイマーやアルバイトは、単純に労働時間に比例して支給する時給制とし、正社員であれば、生活の安定を保証する意味で月々安定した月給制で支給します。実習実施機関に月給制の正社員がいる場合には、技能実習生の賃金も正社員と同様に月給で支給するようにしましょう。
時間外労働には割増賃金が必要
農業においては、1日8時間、週40時間の法定労働時間や週1日の休日の付与が法律で義務づけられていないので、法定労働時間を超えて労働させたり、休日に労働させても、割増賃金の支給義務はありません。
しかし、技能実習生に対しては、「他産業並みの労働環境等を目指していくことが必要」であることから、労働時間等については他産業に準拠するよう指導されており、1日8時間または週40時間を超えて労働させたときには2割5分増し以上、法定休日に労働させたときには3割5分増し以上の割増賃金を支給しなければなりません。
技能実習生を雇用管理する上で講ずべき措置
(厚生労働省「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」より)
厚生労働省は「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」(平成19年8月3日/以下「外国人雇用管理の指針」という。)にて、外国人労働者を雇用するうえでの必要な措置を定めています。
技能実習生は外国人労働者に含まれるとしているので、技能実習生には、労働基準法、労働安全衛生法、最低賃金法、労働者災害補償保険法等の労働者に係わる諸法令が適用されます。したがって、実習実施機関はこれらの法律を遵守することはもちろんのこと、この外国人雇用管理の指針を十分に理解し、必要な措置を講ずる必要があります。
外国人雇用管理の指針では、外国人労働者(技能実習生)の雇用管理について、実習実施機関が講ずべき必要な措置として、「適正な労働条件の確保」「安全衛生の確保」「労働・社会保険の適用」「適切な人事管理、教育訓練、福利厚生」を挙げています。
1.適正な労働条件の確保
(1)均等待遇
事業主は、技能実習生の国籍を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱いをしてはならないこと。
補足)労働基準法第3条で賃金、労働時間その他の労働条件について、国籍を理由とする差別的取扱いを禁じています。 |
(2)労働条件の明示
イ 書面の交付
事業主は、技能実習生との労働契約の締結に際し、賃金、労働時間等主要な労働条件について、当該技能実習生が理解できるようその内容を明らかにした書面を交付すること。
ロ 賃金に関する説明
事業主は、賃金について明示する際には、賃金の決定、計算及び支払の方法等はもとより、これに関連する事項として税金、労働・社会保険料、労使協定に基づく賃金の一部控除の取扱いについても技能実習生が理解できるよう説明し、当該技能実習生に実際に支給する額が明らかとなるよう努めること。
補足)労働基準法第15条及び厚生労働省令で、賃金、労働時間その他の重要事項については、書面にして交付することが義務づけられています。 |
(3)適正な労働時間の管理
事業主は、法定労働時間の遵守、週休日の確保をはじめ適正な労働時間管理を行うこと。
補足)事業主は、労働者の労働時間を適正に把握・管理することが義務付けられています。 |
(4)労働基準法等関係法令の周知
事業主は、労働基準法等関係法令の定めるところによりその内容について周知を行うこと。その際には、分かりやすい説明書を用いる等技能実習生の理解を促進するため必要な配慮をするよう努めること。
補足)「労働基準法等関係法令に関する事項について」は、入国後に実施される外部の専門家による集合講習にて技能実習生に説明することが義務づけられています。 |
(5)労働者名簿等の調製
事業主は、労働基準法の定めるところにより労働者名簿及び賃金台帳を調製すること。その際には、技能実習生について、家族の住所その他の緊急時における連絡先を把握しておくよう努めること。
補足)労働基準法第109条で、労働者名簿や賃金台帳、その他労働関係に関する重要書類(タイムカードや残業関係の書類を含みます。)を3年間保存することが義務づけられています。 |
(6)金品の返還等
事業主は、技能実習生の旅券等を保管しないようにすること。また、技能実習生が退職する際には、労働基準法の定めるところにより当該技能実習生の権利に属する金品を返還すること。また、返還の請求から7日以内に技能実習生が出国する場合には、出国前に返還すること。
補足)労働基準法第23条で、退職時に労働者の権利に属する金品を返還すること、請求があった場合には、7日以内に賃金を支払うことが義務づけられています。 |
(7)労働・社会保険
技能実習生の労働保険と社会保険の適用について、法人であれば、労働保険(労災保険、雇用保険)及び社会保険(健康保険、厚生年金保険)の加入は絶対条件です。
個人事業の場合の労働・社会保険の適用は下表のようになります。
労働保険 | 社会保険 | ||||
---|---|---|---|---|---|
従業員常時5人未満 | 従業員常時5人以上 | 国民健康保険 | 国民年金 | ||
労災保険 | 雇用保険 | 労災保険 | 雇用保険 | ただし、 事業所で使用される者の 2分の1以上の同意及び 厚生労働大臣の認可があれば 健康保険が適用される。 |
ただし、 事業所で使用される者の 2分の1以上の同意及び 厚生労働大臣の認可があれば 厚生年金が適用される。 |
任意加入 ただし、 必ず任意加入 しなければ ならない。 |
任意加入 労働者の 過半が同意、 もしくは 希望する場合に 任意加入する。 |
強制加入 |
2.安全衛生の確保
技能実習生の労働災害と職業性疾病の発生防止及び心と体の健康の確保を図り、心身ともに健康で安心して働ける快適な職場環境を形成することが必要です。
労働安全衛生法等の法の履行を図ることはもとより、技能実習生に対する安全衛生管理、健康確保及び職場環境の整備に努めるとともに、事業主が講ずべき必要な措置として、特に次の事項が定められています。
(1)安全衛生教育の実施
技能実習生に対し安全衛生教育を実施するに当たっては、当該技能実習生がその内容を理解できる方法により行うこと。特に、技能実習生に使用させる機械設備、安全装置又は保護具の使用方法等が確実に理解されるよう留意すること。
(2)就業制限の遵守
技能実習生に対して、最大荷重1t以上のフォークリフトの運転の業務等就業制限業務に従事させる場合は、フォークリフト運転技能講習を修了する等の法定の必要な資格を取得させた上で従事させる。
(3)健康診断の実施等
労働安全衛生法等の定めるところにより技能実習生に対して健康診断を実施すること。その実施に当たっては、健康診断の目的・内容を当該実習生が理解できる方法により説明するよう努めること。また、技能実習生に対し健康診断の結果に基づく事後措置を実施するときは、健康診断の結果並びに事後措置の必要性及び内容を当該実習生が理解できる方法により説明するよう努めること。
補足)技能実習生に対して、雇い入れ時及び1年以内ごとに1回、定期に法令に基づく項目について医師による健康診断を実施しなければなりません。また、重量物の取り扱い等重激な業務、深夜業等の業務に常時従事させる場合には、当該業務への配置換えの際及び6月以内ごとに1回、定期に法令に基づく項目について医師による健康診断を実施する必要があります。なお、技能実習生に特定化学物質等の取り扱い等の有害な業務に常時従事させる場合には、法令に基づく医師による特別な健康診断を実施する必要があります。 |
(4)労働災害防止のための日本語教育等の実施
技能実習生が労働災害防止のための指示等を理解することができるようにするため、必要な日本語及び基本的な合図等を習得させるよう努めること。
補足)「労働基準法等関係法令の周知」と同様に、入国後に実施される外部の専門家による集合講習にて技能実習生に説明することが義務づけられています。 |
(5)健康指導及び健康相談の実施
技能実習生の相談者として、生活指導員の役割は重要である。技能実習生の中には、人間関係や過度のストレスのために心の病を抱える者が増えており、場合によっては心の病が原因とみられる事件も発生している。技能実習生に対するメンタルヘルス対策として日常の適切な指導・管理が非常に重要になっている。
補足)監理団体の役割として「相談体制の構築」が義務づけられています。技能実習生の相談は実習時間外になされるケースが大半と考えられますので、休日や夜間の相談にも対応できるようにすることが望まれます。また、技能実習生の母国語での相談に対応できるようにすることが望まれます。 |
(6)技能実習生のメンタルヘルス疾患と対策
技能実習生のメンタルヘルス対策は、日頃から彼らの日常生活を注意深く観察することが基本です。そして、症状が出たと思われたら少しでも早く専門の医師に相談することが重要です。
メンタルヘルス疾患の原因はストレスといわれています。職場の人間関係、仕事の内容、家族問題などがストレスとなり発症することになりますが、自分ではストレスと感じていなくても知らぬ間に心や身体に負担がかかり、症状となって表れることが多く、また、本人や周りの人もなかなか気がつかないということも多いのです。
受入れ機関は、まず、技能実習生が異文化の中で実習をしており、通常より強いストレスのかかる環境の中にいるということを理解し、その上で、特に日常生活の面で十分な配慮をするよう心がけることが重要です。
例えば、途中で帰国させられることを恐れるなどのストレスを抱えていても、近くに相談できる人がいないため、一人で悩んでいる実習生は少なくないといわれています。日頃から、信頼関係を築くよう努力することが重要で、そのために、実習生である前に、一人の人間として接する、彼らの文化を尊重し大切に扱う、過度に管理的に接しない、ということを心がけてください。
(7)労働安全衛生法等関係法令の周知
労働安全衛生法等関係法令の定めるところにより、その内容について技能実習生に周知を行うこと。その際には、分かりやすい説明書を用いる等技能実習生の理解を促進するため必要な配慮をするよう努めること。
当該コンテンツは、「キリン社会保険労務士事務所」の分析・調査に基づき作成されております。