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雇用によって生じる責任
人を雇用すると使用者は様々な責任を負うことになります。労働契約とは労働者の労務供給に対して使用者が賃金を支払う契約です。使用者は労働者の労務提供に対して約束の賃金を支払うのは当然ですが、賃金支払義務だけでなく、労働者に対して様々な責任を負うことになります。また、同時に使用者は人を雇用すると、様々な法律等を遵守する義務を負うことになります。
そのために基本的なルールを勉強し理解する必要があります。具体的には、労働関係法規と呼ばれるものが中心となりますが、中でも最も重要な法律は労働基準法です。労働基準法は憲法25条1項(生存権)と憲法27条2項(勤労条件の基準)を具体的に法律にしたものです。
この法律は、労働者の保護を目的とした法律であり、「労働条件の最低基準」を定めたものです。最低基準だから、従業員にとっては、労働基準法で定める基準を上回っているほうが望ましいことは言うまでもありませんし、経営者として最低基準のクリアで満足することなく、従業員のさらなる労働環境の改善に努める必要があります。
生活の保障
「収入が少なかったから」これが農業からの離職理由の最も多い回答です。農業を一生の仕事にと希望を抱いて農業法人等に就職したけれど「この給料じゃ結婚は無理」「今は共働きだから何とかなるけど子供ができたらこの給料では家族を養えない」と農業を続けていくことを諦める若者が後を絶ちません。
労働基準法第1条は、「労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない」と規定しています。「人たるに値する生活」とは、標準家族の生活も含むものと考えられています。したがって、たとえば労働条件の最重要項目である賃金について、その額は少なくとも正社員の賃金であれば、家族を養う「主たる生計維持者」としてふさわしい額でなければならないでしょう。
業務災害の補償
労働基準法では、使用者に対して、労働者の業務上の負傷に対して様々な災害補償義務を課しています。たとえば、使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかった場合には、必要な療養を行い、又は療養の費用を負担する義務を負っています。また、療養のために、労働することができず賃金を受けない労働者に対しては、平均賃金の60%の休業補償を行う義務を負っています。
他にも後遺障害が残った場合には、その程度に応じて障害補償が義務づけられていますし、万一労働者が死亡した場合には遺族に対する補償も義務づけられています。これらの補償義務は、使用者の過失の有無は問いません。労働基準法では、労働者を災害から守るために様々な規定を設け、労働者や家族に一定の補償を行うよう義務づけているのです。
しかし、法律でこれらの規定を義務づけても使用者が無資力のため補償されないことも考えられます。そのため、国が労働者に対し、直接災害補償する制度が必要となり誕生したのが労災保険です。「労働者が労災保険法に基づいて補償を受けられる場合には、使用者は災害補償義務を免れることになる(労基法84条)」のです。
農業では、常時雇用している労働者が5人未満の個人経営の事業所は労災保険の加入が任意であるため、従業員を雇用していても労災保険に加入していないケースがありますが、この場合に万一従業員がけがをしたときには使用者が自己資金で補償をすることになります。労働者の業務災害は経営の最大のリスクであり、労災保険の加入はリスク管理の基本中の基本です。
安全と健康への配慮
使用者は、労働者に対して安全配慮義務を負っています。農業の現場にはさまざまな危険が潜んでいます。たとえば、近年、新規雇用による未経験者が増加する中、農業法人で業務中にケガをする者の多くは、20〜30代の若者であり、雇用管理上、安全衛生教育をはじめとして、労働災害防止対策が重要な位置づけを占めています。
また、定期健康診断は、労働者を使用する事業者すべてが行う義務があります。定期健康診断結果の有所見率は上昇の傾向にあると言われており、健康診断の重要性は年々増しています。労働者が心身ともに健康で、その能力、技術を十分に発揮できるよう、事業者は安全と健康に十分な配慮をすることが非常に重要なのです。
雇用には「責任」が伴う | |
①生活の保障 |
正社員の賃金は、家族の生活を維持できる額を支給しよう |
②災害の補償 |
業務中の災害に対しては、補償義務があることを自覚しよう |
③安全と健康への配慮 | 災害防止対策・安全教育・定期健康診断を確実に実施しよう |
当該コンテンツは、「キリン社会保険労務士事務所」の分析・調査に基づき作成されております。