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(熊本県『天草農工房ふぁお』筒井洋充)
はじめまして。筒井洋充と申します。熊本の天草でデコポンのブランド名で知られる柑橘を栽培しています。
ゆとりがある農業のスタイルを探していたとき、出会ったのが週休 3 日で農業をしている方の本でした。タイトルは忘れましたが、脱サラしてぶどう農家になった人の話です。それによると、ぶどうのような果物は1 年サイクルなので、野菜に比べて日々の作業に余裕があるとのことでした。
農業は作るもので働き方も変わる
農業と言えば多くの方は野菜や果樹を思い浮かべるかもしれませんが、畜産や酪農など農業の範囲は多岐にわたります。何を作るかによって、働き方まで大きく変わるのです。たとえば、ぶどうは棚を作ります。それが日陰になって雑草が生えにくくなる上、草刈りも乗用の芝刈り機で一気にできる、ということでした。また、果実は加工需要もあるのでいろいろな売り方ができるそうです。
この本を読んだ私は果樹を育てることに決めました。実際にやってみて、情報収集をするうちに「農業しよう」から「果樹にしよう」と具体的なものになっていったのです。
そんなとき、神奈川県が主催するオレンジホームファーマー制度というものを見つけました。耕作放棄された一画で、レモンや温州みかんなどの柑橘類を育てるという企画です。県の農政部の職員から栽培管理を学びながら、実際に果樹を育てる体験ができます。
場所選びは、縁
ところが、神奈川で新規就農し果樹をはじめるのは難しいことがわかってきました。果樹は広い土地が必要です。人口が密集する首都圏で、地域にツテのない会社員が、果樹園ができるほどの土地を用意するのは現実的ではないと思うようになっていきました。
果樹をするなら首都圏を離れる必要がある。そこで40 歳を過ぎた頃、はじめて移住フェアに行ってみました。そこで知り合ったのが、香川県・小豆島で醤油の醸造会社をしている社長です。
小豆島はオリーブで有名な瀬戸内海の島ですね。オリーブは市場としておもしろいのではないかと思いました。そして小豆島のオリーブ農園に連絡をとり、手伝いをさせてもらえる農園を見つけました。それから約 3 年間、年に何度か小豆島に通う暮らしがはじまります。
早期退職者募集に手を挙げた
脱サラの決め手は、会社で早期退職者の募集が出たことでした。早期退職で辞めるか、自己都合で辞めるかで、退職金も失業保険の条件も大きく違います。そのとき私は45 歳。募集の対象も45 歳からでした。早期退職者の募集はいつもあるわけではありません。それに農業は体力が必要ですから、飛び込むなら少しでも若いうちがいいはずです。
お世話になっていた小豆島のオリーブ農園に「小豆島に行きたい」と伝えました。農園からは給料は出せないと言われましたが、運良くANAのグループ会社から業務委託の仕事をもらうことができたので、生活の心配はなさそうです。いろいろな目処がたち、早期退職に手を挙げることにしました。
