公開日
(石川県『菜園生活 風来』西田栄喜)
他業種に交じってのネット販売塾
起農初年度の農閑期を利用してホームページを作成し、2001年春に開始したネット販売。ただ販売してみたもののどうやって広めていいのか分からない。そんな時に声をかけてくれたのが就農塾で行っていた「石川21世紀農業育成機構」です。
その頃はネット販売黎明期、そんなニーズが多かったのだと思いますが、石川県の中小企業・ベンチャー企業の新事業創出、創業、研究開発、販路開拓を総合的に支援している公益財団法人・石川県産業創出支援機構(通称ISICO)が2001年3月に立ち上げたのが「お店ばたけISHIKAWA」になります。「お店ばたけ」はインキュベート(孵化装置)の位置づけで研鑽しながら実際に販売してみようというモール(インターネット上の商店街)になります。最初は商業、工業への声かけだったのですが、農業にも声をかけてみようと情報が「石川21世紀農業育成機構」に行きました。
石川県内の多くの農家に声をかけたようですが、実際に参加したのは我が風来と林農産(米と餅販売)、本多農場(米と卵販売)の3軒だけでした。ちなみにこの3軒とも今もネット販売を続けていてそれぞれ売上の中心を担っています。
なあなあではない厳しい雰囲気
農家の勉強会だと顔見知りも多くなあなあの雰囲気のものが多かったのですが、「お店ばたけ」は黎明期の熱量というのでしょうか、毎回喧々諤々、内容も濃く厳しいものでした。「お店ばたけ」の1期生は20名(20社)。毎回それぞれのホームページのダメ出しも。直系の先輩である林農産のサイトも「写真が気持ち悪い」「動線がスッキリしていない」「コンセプトが見えない」などケチョンケチョン。でもそんな意見を直に受け入れブラッシュアップしていった結果、現在、林農産ではサイトを通じた年間売り上げが2000万円を超えています。
風来のサイトも私の手づくりでしたので色々指摘されました。その都度修正していくとアクセス数が伸びてきて売上も少しづつアップ。サイトの見せ方や検索されやすいようになどの努力もあったと思いますが、毎日なにかしら変化しているというのが伝わっていたからなのかなと思います。それはリアル店舗でいうと毎日の掃除にあたるのではないかと思います。作ったからと放置しないでホームページを毎日確認して小さい修正でも重ねていく。それはユーザーさんにも伝わるのではないでしょうか。
そして「お店ばたけ」で教わったのが「キャッチフレーズ」と「コンセプト」を持って、それを軸に考えるということです。誰もがホームページを持てる時代。実際2000年頃には農家のサイトも沢山できてました。ただ農家といえば田んぼや畑の中で家族での笑顔での写真。そしてそのような差別化ができていないサイトの多くは数年以内に辞めていました。ここでも継続していく大切さ、そして漫然と続けるのではなく意思を持って続けるのが大事だと学びました。
異業種交流
「お店ばたけ」の初期メンバーは20名。うち3名は農家でしたが、あとは醤油メーカー、化粧メーカー、おもちゃ屋、織りネーム、珍味メーカー、近江町市場の卸売業、写真屋さんなど様々で個性豊かなメンバーが揃ってました。それまでは〇〇業と、いわゆる業界単位での商売のやり方があったと思うのですが、ネットだと何でも販売できるのでその壁がなくなります。そんな「お店ばたけ」の勉強会はまさに異業種交流の場となりました。
百姓的(百の仕事ができる人)な発想
「売上アップ」という共通目標があるので立場もイーブン。その頃はまだメルカリもオンラインショップサービスも産直ECもない時代。どの決済がいいかとか買い物カゴのシステムはどれがいいのかなと業種も規模も越え情報交換できました。今、風来では新規就農希望者からの視察があった時に「百姓的(百の仕事ができる人)にした方がいい」とアドバイスするのもこの時の感覚があったからです。自分を〇〇業とすると固定観念化してしまいます。そうなると新しい発想がでてきません。農家のホームページであっても農産物だけしか売ってはいけないわけではありません。
そういった意味では同じく「お店ばたけ」初期メンバー農家の本多農場さんでは卵や米はもちろん、精米機や野菜庫、米倉庫なども販売しています(それらの商品は売れた時にメーカーに連絡、メーカーからユーザーさんに直送、手数料が本多さんのところに入ります)。農家になる前から百円ショップや自然食品店はすごいなと思っていました。「百円」や「オーガニック」をコンセプトに何を売ってもいい。知り合いの自然食品店においては野菜はもちろんですが、浄水機や掃除機まで売ってて幅広いと思ったことがあります。
それがネットを通じて誰もが出来るようになった。もちろん何でも売れるから売ればいいかというとそうではありません。無造作に揃えると安売り合戦になってしまいます。そうではなくそのお店だからと納得して買ってもらえる。そのためにはコンセプトを打ち出すことが大切です。異業種交流となった「お店ばたけ」ではネット販売の勉強だけでなくこういった柔軟な発想を持つことにも役立ちました。何より仲間がいることで諦めずにやってこれました。
