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(石川県『菜園生活 風来』西田栄喜)
「オーガニックライフEXPO in 東京」で行われたセミナー「小さい農業の可能性」にパネラーとして参加させていただいたのですが、小さい農を実践しているすべてのパネラーが口を揃えて言ったのが「食糧安保の観点から平地での大規模農業は必要。そしてその大規模農業を守るためにも中山間地の農業は必要不可欠」という意見でした。
なぜ中山間地の農業は必要か
日本で大規模農業というと稲作が真っ先に浮かぶと思います。日本の稲作は水田。そして水田は用水があってこそで、その用水は山から海まで繋がっています。つまり中山間地の農業が荒廃していくと途中の用水が管理されなくなり、結果的には下流にある平地の農業にも大きな影響が出てきます。また農作物の獣害の被害拡大においても境界線だった中山間地の耕作放棄地が原因との声もあります。
農に携わるのはハードルが高いという現状
そういった意味において中山間地の農地を守っていくのも大切だと思うのですが、日本においては農に携わりたいと思ってもハードルが高いのが現状。ひとつは農地の流動性の問題もありますが、何といっても初期投資がかかるというのが大きなネックになっていると思います。
そんな敷居を少しでも下げたいということで、自称日本一小さい農家、我が菜園生活 風来(ふうらい)ではトラクターなし、軽トラなし、半不耕起で管理機一台あればできる農業を提唱していますが、これは畑作なればこそ。
日本の農産物で一番大きな面積をしめている稲作についてはトラクター、田植え機、コンバイン、ライスセンターなど初期投資に最低でも500万円(個人的実感として1000万円以上)かかると言われています。つまり日本で一番育てられている農産物が一番参入障壁が高いのです。
誰でもできる稲作を広める〜陶武利さんの挑戦〜
そんな一般的にお金がかかる稲作を誰でもできるようにしたいと活動されているのが冒頭のセミナーで同じパネラーをされていた陶武利 (すえ たけとし)さん。陶さんは農学博士で現在、千葉県君津市で「自然を味方に、生き物たちと歩む」というコンセプトで「生きもん農園」をやられています。
不耕起栽培、直播き、トラクターなし、田植え機なし、施肥なしで1反あたり7俵の稲作をやられています。そのことについて論文も提出されたとのこと。そう聞いてもにわかには信じられないと思いますが、実際に陶さんの圃場に行かせていただきその現場をみて納得しました。(その仕組みについては後ほど書かせていただきます)
そんな陶さんは、小さい頃から生き物が好きで水槽で魚を飼うのが趣味でした。水槽という限られた空間の中でいかに循環できるかに大きな興味があったようです。そんな生き物好きが高じて大学は農学部へ。修士課程に進み農学博士になりました。大学卒業後はアクアリウム(魚や水草などの水生生物を、水槽で飼育・観察する趣味や環境)のメーカーへ就職。1年半で辞職し、3年間フリーター(日本野鳥の会などに所属)した後に自身でアクアリウムの会社を立ち上げられました。
そんな仕事をしている時にふと思ったのが水槽はリセットできるけど地球はリセットできないということでした。この想いが後に極力石油を使わない農業スタイルの確立に繋がります。
ガチョウと浮草で稲作
アクアリウムの資材や魚を売ることで独立した陶さん。 輸入するものが多かったことから成田空港の近くに家を借りました。 そこは隙間風が入るぐらい ボロ屋だったそうです。そうこうしている間に 木更津方面で大きなガラスハウス付きの物件があると聞き、提示されている金額からして無理だと分かっていながら興味本位で見に行ったところ、オーナーさんが引退するということで安く譲ってもらえることになり購入。今、生きもん農園のあるところに家族で引っ越して来られました。
アクアリウム販売においては10年以上低空飛行が続いていたのですが、コロナ禍において「おうち時間」が増えたことにより、アクアリウムと新規事業として立ち上げたテラリウム(ガラス容器の中に植物や小さな生き物を入れて育てる、小さな循環世界を作る園芸方法)が人気となり、今では9名の従業員を雇えるほど成長されました。
そんなタイミングで耕作放棄されている田んぼをやらないかという声をいただき、挑戦することに。最初は0.5アールだったのですが数年放棄されたところを開墾するのが大変だったとのこと。また田植えにおいても何日もかかるくらいで腰もいためたそうですが、それでも極力石油を使いたくないという思いから人力でやっていたそうです。
ただこのままでは続けていくこと、まして拡大することはできない。その時に大学時代に学んだ農業の歴史で人類は7000年以上前から動物の力を借りて農作業をやってきたことを思い出し、身近なところからガチョウをもらいはじめたのが「生きものの力を借りる」今の 「生きもん農園」の原点とのこと。
ガチョウが稲作に及ぼす影響の発見
稲作で鳥を活用するというと「合鴨農法」が有名ですが、陶さん曰く、「合鴨とガチョウはまったく特性が違う」とのこと。雑食性である合鴨と違い、ガチョウはベジタリアン。ガチョウは歯(くちばし)がノコギリのよう鋭く長い首で水中、土中の雑草をまさに根こそぎ食べ、堅い葦(ヨシ)なども平気だそうです。
逃げないように圃場の回りにネットで柵を張り水を入れてガチョウを放すと重機が必要なレベルのところでもどんどん開墾されていくとのこと。つまりガチョウは農地の再生に最適。
