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(熊本県『天草農工房ふぁお』筒井洋充)
はじめまして。筒井洋充と申します。熊本の天草でデコポンのブランド名で知られる柑橘を栽培しています。
今、農業は危機的な状況になっていると言われています。ご承知のとおり、日本は人口減少のトレンドに入りました。その上、農業従事者の多くは65歳以上。実際は70代、80代の方も少なくないはずです。そのため「日本の食はどうなってしまうのか?」といった報道も目にするようになりました。
ただこうした報道や行政のあり方を見て常々思うのは、本気で日本の食を考えるなら、今の農業はあまりにも農家(法人も含む)まかせだということです。どんなに意義ある仕事でも、今のようなローリターンハイリスクの状況でやりたい人はいないでしょう。
今回は農作物の価格の決まり方についてお話しします。
農家は値付けしていない
「野菜が高い」スーパーで買い物をしていてそのように感じたことがある人は多いでしょう。「その分、農家が儲けている」と思うかもしれませんが、そんなことはありません。なぜなら、JAや市場に出荷した農作物の値付けに、農家はまったく関わっていないからです。
農業以外の仕事では、先に価格を決め、その後に商品やサービスを提供するのが一般的でしょう。しかし、農業はそうではありません。口座に代金が振り込まれてはじめて、今年は「1キロいくらだった」とわかります。不作の年は多少金額も上がりますが、もともと量がないのですから、全体で見ればインパクトがありません。
他人に価格を決められるなんて、あまりにも受け身ですよね。
「ネットで高く売る」は現実的か
それなら、オンラインショップなど自分で値付けできるところで売ればよいのでは?と思うでしょう。たしかにオンラインショップでは価格決定権がありますが、スーパーや青果店などとの比較があるので、まったくの自由というわけにはいきません。
作り方にこだわったり、めずらしいものをつくったりして希少性を高める方法もありますが、食品である以上、現実離れした価格をつけても売れません。一度は買ってもらえても、リピートされにくいと思います。手入れすればずっと使える宝石やバッグとは違うのが難しいところでしょう。
デコポン規格に満たないものを売る
就農したばかりの頃、贈答品になるようなピカピカの不知火を自前のオンラインショップや産直マルシェで売り出したことがありました。しかし、思ったほど売れませんでした。産地直送を利用するお客さんの多くは、自宅用や親しい友人、家族が食べるものを探しています。もちろんデコポンは名乗れません。
外観を除けば糖度などはデコポンと遜色ないものですが、購入いただい方は名称にこだわらない方々です。そこで私は、外観が劣るものを中心に直販することにしました。
