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(埼玉県 『横田農園』 横田 進)
埼玉県吉見町で農園を運営している横田と言います。
「農業は勘」という言葉を一度は耳にしたことがあるかもしれません。雪解けの時期を山の形を見て知る、湿度を肌で感じて天候を予測する、様々な場面でベテラン農業者が発揮する感覚が、農業は”勘”で営んでいるように見えるからではないかと思います。では、その感覚を養うにはどうすればよいか、本当に”勘”で根拠はないものなのか…私の場合はイチゴについてとなりますが、これまでのことを振り返りながら考察していきたいと思います。
「農業は勘」
全ての現象には理由があります。変化を全身で感じるのです。
土耕では、その地域が持つ特有の条件を踏まえる必要があります。対して、今流行りの高設栽培は、その地域の風土に影響を受けないので分析・評価が容易で再現性が高くなります。植物工場は不確定要素をコントロールできるので更に再現性が高くなります。
そもそもその地域で長年培われ定着した農産物には地域特有の条件が存在します。それを最大限生かすのが勘なのかなと思います。
当地域で考えると
環境条件:日照時間・降水量・降雪量・風速・気温・湿度・大気(炭酸ガス濃度)・道路・水・河川・人
土壌の性質:硬さ・柔軟性・保水性・排水性・保肥力・微量要素・科学物質の混入・上層から下層までの様々な状況
これらの条件は季節毎に変化し全体を考慮して作物を育てる事が大事ですが、どの要素も年と言う単位でみると論文になるくらいの情報量です。これらを全て数値化して農産物を生産する事は不可能です。
そこで勘が大事になります。何故この地に定着したのか?何故この農家は病気が出ないのか?何故この農家は、沢山収穫できるのか?何故この苺は美味しいのか?何故、何故、何故、何故この経験の積み重ねになります。まずは、現在生き残っている農家の栽培をコピーするのが一番確実なスタートになります。そのうえで自分なりの工夫を加える事になります。
「多くの失敗経験」
病気
私が柔軟に対応できるようになったのは、多くの失敗を経験し、それを乗り越えて、勘と呼ばれるようなものが身についたことが大きいです。大きな失敗と小さな成功を繰り返してきました。
就農1年目は前職の仕事をしながら片手間の苺栽培で苗を近所の農家から購入しまずまずの結果、そこそこお金になり、苺栽培って簡単!【小さな成功】
実はこの小さな成功体験が2年目以降の大失敗の原因となっています。
2年目以降の3年間、とにかく苺苗の病気で苦しみました。技術を身に着けるまで就農2年目300万の赤字、3年目75万の赤字、4年目50万の黒字、手持ちの資金は無くなりました。病気の怖さは経験してみて初めて分かりました。【大きな失敗】
病気による苗不足補充の為、当時のスタッフと片道4時間かけて山奥へ苺苗を堀に行った時の写真です。朝2時起きで行ったので、途中道の駅で弁当を買い足湯に入り、それなりに新鮮で楽しかった!3年行きましたね。苗の山あげをしている農家の余剰苗を頂きに行くので毎回行く場所が違うのです、熊が出るところもありました。
こんな事が出来たのは農家の伯父の口添えがあったからです、多数の苺農家との繋がりをもっていました、今考えてみると当時伯父は私が苗作りを失敗する事を解っていたのですね。山あげしている農家の情報を集めてくれていたのですね。最近は高齢化と動物の出没で苺苗の山あげをしている農家は、ほとんどなくなりました。
無駄な投資
当初は農業技術も無く農業分野で信用も無かったので、資金の借り入れもできませんでした。5年目からは、それなりに認められて農業資金を組めるようになり、次々と借金をしてハウスの増築をしました。設備投資においても次ような失敗を経験しています。
・高度な潅水設備等50万掛けて導入しましたが、当地域の水質は悪く5分でつまり使い物になりませんでした。
・播種機も買いましたが播種後に雑草の大量発生で1回の使用で無駄な事がわかりました。
