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(長野県 『フルプロ農園』 徳永 虎千代)
ご覧いただきありがとうございます。長野でりんごを中心とした果物の生産販売を行う株式会社フルプロの代表の徳永虎千代と申します。フルプロ農園は、『フルーツのprofessional』、『フルーツをproduct』、『フルーツのproduce』『フルーツproject』というフルーツで4つの想いを掲げる農園です。
農家の四代目として生まれ、今は、地域のりんご生産が盛んになることを目指し、役職員一同で取り組んでいます。本連載では、私が就農したきっかけや令和元年台風19号災害、それらの経験を通じて移り変わった農業観・人生観についてお話したいと思います。
就農した当初は、正直、軽いノリと勢いで、特別農業に思い入れがあって就農したわけではありません。ですが、りんご、農業が自分にもたらしてくれたものに感謝しており、その事実について率直にお届けさせていただきます。経験してきたことが、これから農業を考えられている方、すでに農業をされている方、どなたかの参考になると幸いです。
自己紹介
卒業後は自動車工場勤務へ
改めまして徳永虎千代と申します。先に述べましたとおり、農家の4代目になります。高校を卒業してから自動車工場に就職しました。当時、私の地域では農業には悲観的な見方が多く、シングルマザーで私を育ててくれた母も安定した母体の工場で勤務をしていくことを歓迎していた節があったように記憶しています。工場は給料や職場環境、同僚にも恵まれ、何不自由なく、楽しく生活していました。しかし、その安定した生活に、何か物足りなさを感じるようになりました。自分の裁量のある環境で何か挑戦してみたい、そう思い就農することを決意しました。
そうと決まったら話は早い。工場を辞め、農業大学に入学しました。一番の応援者である母には、このことをギリギリまで言えずにいました。就職を喜んでくれていた母。安定した生活を捨て、新たな挑戦をする選択はすんなりとは受け入れてもらえないと思っていたからです。案の定、これを伝えた時、涙を流す母の姿を今でも記憶しています。現在は、母は一番の応援者で会社の仕事もやってくれています。
農業大学校へ
何はともあれ、県立の農業大学校へと入学し、就農に向けた一歩目を踏み出しました。ここでは、多くの貴重な学びと出会いがありました。果樹コースを選択して、長野県の果樹研究所に入り、研究員さんの元で学ばせていただくことができました。また、研修旅行では、すでに活躍されている大きな農業法人等を周り、私のイメージしていた小さい農家から組織的な農業法人に関心を持つようになりました。
卒業前には、研究員さんや先輩に向けて独自のアンケートを行いました。これからの時代にどんな作物が良いか、今経営するのに向いている手法は。等です。「シャインマスカットは利益率が高い」、「桃の生産量が減っているのだからチャンスがあると思う」など、様々な観点で教えていただきました。
特に果樹農家の売上は1,000万円以下がほとんどであるなかで「農業に馴染みのない若年層を雇用するなどしてりんご高密植栽培で5億円を目指せ!」と言ってくれた方が印象的でした。他の品目は技術で拡大に限界があるが、りんご高密植栽培であれば、技術をマニュアル化できるので農業経験のない方を季節雇用する形でも5億円を目指せるということでした。現在、フルプロ農園で導入している”高密度栽培”を知ることが出来たのは良かったと思います。実家はりんご農園で改植し直す必要がある畑もあり、収益性が高くりんごを栽培できる方法である、という点に可能性を感じたのです。
就農当初
就農
農大を卒業後、父から1haの農地を継ぎ、希望と技術を持って意気揚々と就農いたしました。しかし、年間売上額は4百万円くらいでそこから経費や給与を差し引く赤字事業を引き継いだことが初めて分かりました。絶望的でした。こんな経営状態を知らせない父を責めようとも思いましたが、あまり父は農業事態に関心がなく暖簾に腕押し状態でした。このままでは、食いっぱぐれるので経営の構造を変えていく必要がありました。
漠然とながらもビジネスチャンスを感じていた
この頃、私は確信まではいかないまでも、ビジネスチャンスがあるのではという漠然とした感覚がありました。それは、高齢化で辞めていくりんご園が多くあることと、現役プレイヤーも高齢の比率が高く販路を比較的有利に展開していけるのではないかと考えていました。
そして、簡単なネット販売をやってみたのです。サイト自体は、農作物だけではない、一般的なフリーマーケットのサイトでしたが、なんと、たったの1週間で100万円の売上を計上いたしました。自社のりんごは価格決定権を持てない市場出荷で安値で取引されていた時代だったため、「これなら儲かるのではないか」と感じたことを覚えています。ちょうどこの時期に私が25歳で法人化をしました。
会社の軸
会社の軸としては、生産から販売までを一気通貫しておこなうことです。生産は、りんご高密植栽培による効率化と収穫量のアップ、販売は直売によって単価のアップを目標としました。特に高密植栽培の導入には大きな初期投資がかかるので資金調達について工夫をしました。
資金調達
何の実績もない若手農業者が正面から資金調達に取り組んでも、簡単に融資してもらえないのではと考えました。なので、私は、地場の有力な卸売である「株式会社長印」に飛び込んでいきました。そして、100万円を出資してもらいましたが、果たして”長印が出資するとはどういうことだ”と銀行に興味を持ってもらい、売上高以上の融資を受けることができました。現在では、高密植栽培の面積は5haを越えるほど畑に対して投資を行うことができました。
販売
販売面では、りんご直販の開拓ということで様々な失敗をしてきました。1年目はフリマサイトで可能性を感じ、2年目はA社やR社(いずれも皆さん耳にされたことがあるような一般的なECサイトです)へ展開しました。オンラインモール運営のノウハウが無いため、商品ページ作り、広告などで数百万円の投資が必要だと言われるまま、支払ってしまいました。詐欺ではありませんでしたが、費用対効果はあまりなかったように思えます。
3年目はふるさと納税とこの頃から始まった産直ECを展開しました。結果的には売上は倍速以上に伸びていきました。特にふるさと納税は市町村内で独占状態だったため引き合いが強く、前年度比4,000万円ほどの増収となりました。自社の生産だけでは足りず、近隣の農家からの買い付けも始まりました。
その翌年4年目は、ふるさと納税の競争が激化して、大手が入りふるさと納税売上が1/10になりました。絶望的です。すぐに新たな販路を確保しなければならない状態でしたが、様々な媒体で広告を行うことでりんごはなんとか販売できて、売上減少も避けられましたが、利益率は大きく下がりました。それ以降は生産量増加に伴って、量販店への販売も増えてきました。現在も利益率の改善などまだまだ課題が残ります。(いい販路などご紹介ください。笑)
市場出荷だけでは、会社として持続的にやっていけないため、上記の販路を構築してきましたがファイナンスや共済ではJAを利用しており関係性は良好な部分もあります。
就農当初から続くポリシー
弊社の品質のポリシーとして、果樹業界では、賛否はあると思いますが、どの農家も最高品質の農産物を作る必要はないと私は考えます。加工前提、量販店基準にしてより多くのりんごを生産していく。という考えの農家があってもいいと思います。それは需要に合わせて農家も産地も変化して継続していく必要があるからです。
振り返り
この就農当初の自分を振り返るとしたら、ただ自分のビジネスチャンスだけを見ていたような気がします。りんご農園を通じて培われた価値観を踏まえて、いま自分自身が大切にしているものにまだ出会っていませんでした。
当該コンテンツは、執筆者個人の経験・調査・意見に基づき作成されています。
