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(石川県『菜園生活 風来』西田栄喜)
耕地面積30アール、自称日本一小さい農家 菜園生活 風来が25年やってこれたのは、私自身がバーテン、ホテルマンの経験を活かしてサービス業の視点から農業を見てきたからではないかと思っています。平均の1/10以下の面積ということで風来では最初から直売、加工ありきでした。
まだ「6次産業化」という言葉も知られていない時代です。なので自由な発想でできました。少し話はズレますが、言葉は広まるにつれて固定概念化されてくるように思います。「6次産業化」の場合、野菜・果樹農家であればB級品を加工して、漬物やジャム、お菓子に。米農家であれば冬の農閑期の間に餅加工、または米粉にしてパン製造を外注すればといった具合に。
いま一度考える。6次産業化の固定観念
6次産業化≠作ったものを加工
そんな「6次産業化」も一時ブームのように多くの農家が取り組みましたが、補助金の打ち切りとともに多くのところが廃業するというのを見てきました。そういったところは加工することが目的になってしまっていたからではないかと思います。先述したとおり風来はサービス業の視点、つまり販売から加工、そして栽培と逆転の発想からスタートしました。
風来の看板商品は白菜キムチになります。これはお袋さんが昔からキムチを手作りしていた影響になります。白菜が余ったからキムチ…ではなく、白菜キムチのためにどのような白菜の品種がいいのか、ニラがいいのか、ニンニクがいいのか、どのように栽培するのがいいのかなどなど。
6次産業化の目的をどこに置くか
ヤンニョム(キムチのタレ)から語れる漬物屋さんは数あれど種から語れる漬物屋さんはそういませんし、それこそが農家が加工する本来の強みだと今は確信しています。そして「6次産業化」の目的は加工することでも高く売ることでもありません。いかに純利益、所得を増やすかだと思います。
我が風来の人気商品のひとつに「ゆず大根」があります。地元の無農薬ゆずをつかったもので1袋160g入りで約500円で販売しています。大きな大根からだと1本から6袋ほどできます。500円のうち、副材料費、袋代、人件費で100円ほどかかるとして、1本200円(今年はもっと高値で販売されていますが)の大根が400円×6=2400円になります。そんな12倍の付加価値がつく、だから「6次産業化」しましょうというのが推進側の意見だと思います。それはある意味間違ってはいませんが、見落としてはいけないところがあります。
大根であれば「おろし」や「風呂吹き」「煮物」に「サラダ」など沢山の用途がありますが、風来の「ゆず大根」の場合「味つけが決まってて」「好みが合うか分からず」「聞いたこともないところ」の「漬物」となります。購買される方の母数が圧倒的に違います。
つまり「6次産業化」は売れてこそ価値があり、売れないと加工した手間をかけた分プラスどころかマイナスになる可能性もあるものなのです。「6次産業化」の目的を所得を増やすためとすると加工にこだわる必要がなくなります。
