(公益財団法人日本生産性本部 統括本部国際協力部 越後 比佐代)
前回はカイゼンのための5つのヒントのうち3つをご紹介しましたので、今回は残りの2つ「提案制度とPDCAサイクル」と「経営者のリーダーシップと従業員のモチベーション」をご紹介します。
【5つのヒント】 1.見える化 2.マニュアル化 3.作業分担 4.提案制度とPDCAサイクル 5.経営者のリーダーシップ |
4.提案制度とPDCAサイクル
(1) 提案制度
現場を一番よくご存知の従業員の方々からカイゼンの提案をどんどん出してもらいましょう。
ある酪農家では「LINEWORKS」というソフトを使って従業員がスマートフォンやパソコンを通して提案をしています。特に新しく入った従業員は新鮮な目で様々なことに気付いた場合でも、経営者や先輩従業員に直接言いにくいことがあるかもしれません。そこで、コミュニケーション・ツールを利用して、気づいたことを発信してもらう場を作るのです。
このような方法で文字にすれば、遠慮してなかなか言い出せないことも伝えやすくなります。そして、大切なことは、発信された提案については、必ず経営者がコメントをし、従業員全員で議論・検討することです。
(コミュニケーション・ツールを使って全従業員と改善点を共有)
また、このようなツールを使用せず、「カイゼン提案ボックス」を設けて、その中に紙に書いた提案を入れる方法もあります。提案の書き方のコツは、現状の問題点と自分で考えたカイゼン後のイメージの両方を文やイラストなどで書くことです。
一つの提案に対して、報奨を贈呈しているところもあります。このような提案制度の効果は、従業員のモチベーション向上に留まらず、日頃の作業に対する「気づき」を強化して、カイゼン点を掘り下げられるというメリットがあります。
(2) PDCAサイクル
カイゼン活動を行う際、PDCAサイクルの活用をお薦めしています。PDCAは、英語の「Plan, Do, Check, Act」の頭文字をとったものです。
① Plan「計画」
まず、カイゼン計画を立て、カイゼン施策を考えます。
② Do「実行」
次に、策定したカイゼン計画を実施します。
③ Check「評価」
カイゼン活動の進捗状況をモニタリングし、終了後には結果を評価します。ここで、成果を従業員に共有することも大切です。
④ Act「改善」
そして、問題点があった場合は原因分析をし、次のカイゼン計画・カイゼン施策を考えます(次のPDCAサイクルへ)。
このように繰り返しPDCAサイクルを行うことにより、カイゼンがどんどん進み、生産性向上、品質向上など、目指す経営目標に徐々に近づいていくのです。
5.経営者のリーダーシップと従業員のモチベーション
カイゼンを推進するためには、経営者のリーダーシップが欠かせません。「カイゼンは経営課題の柱のひとつ」と位置付けて、経営者が率先して従業員と一緒に進めることが極めて重要です。
(1) ビジョンの共有
経営者が従業員にはっきりと牧場が向かうべき方向性と姿勢を示すことが肝要です。これがリーダーシップにつながります。例えば5S活動を開始する際に経営者が「5S宣言」を行い、従業員にその意向を伝えます。
経営者のスタイルは様々ですが、ここでは牧場Aの二つの事例をご紹介します。
<事例1>
日頃から「LINEWORKS」等のコミュニケーション・ツールを通じて牧場のあるべき姿、進むべき方向性、ミッション、ビジョンなどを従業員全員と共有しています。これは大変重要なことで、このようなメッセージがないと、従業員は自分の働いている職場(牧場)の方向性や自身の未来像が分からず不安を覚えます。
<事例2>
同牧場では教育制度と教育体系も充実しており、入社何年目で受ける教育や身に付けるべきスキルなどが明確にされています。これによって、従業員は自分の進む方向性と、将来自分がどのように処遇されるが分かるので、目標に向かってモチベーションを上げて仕事に励むことが出来ます。
(2) 経営者主導のパトロール
一旦始めたカイゼン活動を従業員のモチベーションを維持しつつ継続していくためのカイゼン手法の根幹に「トップ主導のパトロール」と呼ばれるカイゼン活動があります。経営トップは毎日1回の巡回を行う中で、以下の点に注意することが大切です。
① 「聞き流し」「聞きっ放し」にしないで必ず何らかの答えを与える
② 「つまらないことを」とか「そんな小さなこと」と軽視してはいけない。訴えている事をとことん理解する姿勢が重要。「大事は小事から崩れる」ということがある
③ 小さなことをこまめに、できるだけその場で解決する
④ 必要に応じて関係者を即時に現場へ召集し、問題への対処を指示する
⑤ メモ帳を肌身離さず持ち歩き、ハッと思ったらすかさずメモするクセをつける
⑥ 記入したメモをポストイットで模造紙に貼り付けるなど見える化する
現場パトロールに限らず、朝のミーティングなどでもこのようなトップの地道な行いが従業員のモチベーションを維持していく秘訣となります。
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