(エフピコチューパ株式会社 上原 英一)
アグリウェブ読者の皆様、こんにちは。
青果物用トレーや袋と言った出荷資材の製造販売を手掛け、農産業界に携わらせて頂いているエフピコチューパ株式会社と申します。
5回目の今回は、トレンドから見る容器・包装の選定をお伝えしようと思います。ご紹介するトレンドから、皆様の考え方を具現化するヒントとなれば幸いです。
ずばりトレンドは大容量と原体保護
上記タイトルにて、最初に結論を記載させて頂きました。「大容量と原体保護」、これは第2回コラム『コロナ禍における新生活様式』でも記載させて頂きましたが、その際はコロナ禍での視点でお話をしました。
今回はその後、アフターコロナの現状と今後についてです。実はこの流れが、現在も更に強いトレンドとなっています。
コロナ禍での大容量が人気の理由は、購入点数と平均客単価の増加でした。可能な限り買い物に行く回数を減らし、まとめ買いをする。これがコロナ禍での消費者のニーズであったため、農産パックは大容量パックの出荷が増加しました。
また、原体保護については段積み出来る容器の消費者メリットとして、マイバックやレジ袋で持ち帰る際、中身の原体が傷つきにくい事があげられますが、ここへ更に、コロナ禍による内容物の保護が好まれた事も後押しされました。
アフターコロナでも「大容量と原体保護」が重宝される理由
コロナ禍での理由は上記にもお伝えした通りですが、アフターコロナの現状でも大容量と原体保護が重宝される理由は3つあります。
【理由1:コロナ禍トレンドの継続者の存在】
1つ目の理由は、コロナ禍のトレンドが定着し現状においても継続者がいるためです。
今後少なからずこの購買層が残るであろうことは、コロナ禍においても予測出来ていましたが、予想よりも上回った感があります。
【理由2:生産〜流通全体の人手不足】
2つ目の理由は、人手不足です。この問題はコロナ以前からの深刻な問題として深く皆様も認識されていることと思います。生産から流通までどこをとっても労働者は足りていません。
(生産段階)
生産者は500gの青果物を包装するのに、1パックと2パックではどちらの方が労力を減らせるでしょうか。当たり前ですが、1パックで済ませられることは省人化につながります。ましてや3パックや4パックすることと比較するとその結果は歴然です。
(販売段階)
同様に販売側にもメリットがあります。10kg分の青果物を店頭に品出しする際、20パック陳列するのと40〜100パック陳列することでは負担が大きく変わります。
また、売場の陳列数が減ると追加の品出しを行いますが、大容量パックでも小容量パックでも段済み出来る段数にさほど相違がないため、小容量パックが一度に大量陳列出来ると言ったメリットがある訳でもありません。
売場に追加の品出しをしなければセールスチャンスを逸します。小容量パックの場合には、貴重な人員を投入しこまめな品出しに対応せざるを得ません。
(物流段階)
更に言えば物流段階でも人手不足に対し改善が行えます。大容量パックは設計段階で青果物用コンテナにぴったり収まるサイズに設計されています。ここから得られる利点は積載効率です。積載効率の良さは人員不足の改善に直結するメリットになります。
上記3つの理由は皆さんも把握されていたことと思います。
【理由3:慢性的な供給過多に起因する「豊作貧乏」】
次に解説する3つ目の理由は知らない生産者の方もいらっしゃるかも知れません。3つ目の理由は「豊作貧乏」です。なぜ豊作貧乏が大容量と結びつくかと、一般的に知られている豊作貧乏とは違う概念を、例を含めてお伝えさせて頂きます。豊作貧乏は天候起因だけではないのです。
一般的に豊作貧乏と聞くと、豊作により作物の供給量が増え、それによる価格下落で農家の利益が減ることと思われます。しかし価格下落だけが起因ではなく、長年の市況変化による慢性的供給過多も存在します。
豊作貧乏への対応策としての「大容量パック」
慢性的供給過多の例
温州ミカンを例にして3つ目の理由の導入部分をご説明します。農林水産省公表の食糧需給表では、温州みかんの国内消費仕向量の粗食料(分かり易く言うと家庭向けと飲食店向け出荷量)は約64.8万tになります。
これに対して、総務省統計局公表の家計調査と小売物価統計調査から算定すると家庭消費量は約36万tしか消費されていません。飲食店での使用を考慮しても40万t程度でしょうか。ようするに、40万tの市場を64万tのみかんで奪い合っているのです。
これを健全化するのは、輸出や加工品の増加、何よりも消費者の消費量を増加させることですが、この問題は機会がございましたらまたとお話するとして、話を本題に戻します。
一度での販売量を増やす店側の手法
健全に本課題を是正しない限り、市場の奪い合いが起こります。消費者の購入機会と回数が少ない際に、一度での販売量を増やすことは効果的な手法です。
少ない購販売機会をいかせられれば、多くの量を購入して頂くことが出来ます。この活動は競合販売店のセールスチャンスを無くしますので、他販売店も大容量パックでの販売を視野し始めます。
結果、大容量パックがトレンド化したというのが、3つ目の理由です。豊作貧乏が起因となり、それに対応する策を販売店が講じられたことから発生したトレンドです。
農業界が先進業界になる未来
温州みかん以外でも同様の事態が起こる可能性はあります。生産者の方が丹精を込め懸命に育て上げ、味と収穫量が共に良好な青果物が、安値どころか買い手がつかない状況など本来あってはならないことだと思います。
現在の状況下では、上記にお伝えした市況背景は簡単に変わらないと思われます。購入機会の減少や、特に人手不足については短期的には改善が見込めず、この問題には抗うことが出来なく、受け入れざるを得ない内容として捉えることが理知的な考え方です。
スマート農業や世の中ではDX化などが盛んにとりざたされていますが、これらは作業や業務の効率化・省人化が目的であり、それとは別に市況の変化に対応できるインフラ整備が期待されています。
5年後10年後の農産業界を取り巻く状況は誰にも分かりません。しかしトレンドや市況、世の中の流れを見つめ続けることは誰もが出来ることです。
市況に合った農業ビジネスをいち早く手掛ける農業関係者の方が増え、日本農業界が世界において先進業界となる日が来ることを期待し、情熱をもって邁進を続けていきたいものです。
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