(イノチオホールディングス株式会社)
イノチオグループでは1990年より農業生産者の支援として病害虫診断を行っております。現在は年間1,200件前後の診断を実施させて頂いております。
本シリーズでは、実際に寄せられた病害虫診断の事例を交えながら、近年の気象状況や栽培環境・栽培方式の変化などの中で注意すべき病害虫やその対策についてお話させて頂きます。
前回は、線形動物「センチュウ」について取り上げました。今回紹介するのは、カビ(糸状菌)の一種です。
フザリウム属菌とは?

植物に病気を引き起こす病原体には、カビ、細菌、ウイルスなどがあります。これらのうち、植物病害のなんと8割以上はカビによるものなのです!
カビと聞くと、例えばジメジメした梅雨の天気や、お風呂場に発生したカビ、青カビや白カビ熟成のチーズ、青カビから発見された抗生物質のペニシリンなどが思い浮かぶのではないでしょうか。これほど身近に存在するカビが植物の病気の大半を占めるのも頷ける気がしますね。
カビの一種「フザリウム属菌」は主に土壌中に生息し、植物に病気を引き起こすものもいれば、病気を引き起こさないものも存在します。
「フザリウム属菌」による病害には、例えば次に挙げるように幅広い作物で報告があります。
- トマト萎凋病・トマト根腐萎凋病
- キク萎凋病
- イチゴ萎黄病
- ウリ科(キュウリ、スイカ、メロンなど)のつる割病
- キャベツ萎黄病
今回はフザリウム属菌の病害の概要をお話しして、具体的な作物と病害については、今後のコラムで随時、診断室からのリアルな情報をお伝えしていけたらと考えております。
フザリウム属菌の種類は作物により異なる
まず、フザリウム属菌は特定の作物に対してのみ病原性を示す「宿主特異性」を持っています。例えば、トマトに感染するフザリウム菌は、イチゴには感染しません。
この宿主特異性は、フザリウム属菌の遺伝子によって決定されており、特定の作物に対してのみ病原性を発揮します。
「萎凋病」=フザリウム属菌の病気とは限らない!
フザリウム属菌が引き起こす病気は、作物によって異なる名前が付けられています。例えば、キクではキク「萎凋病(いちょうびょう)」と呼ばれますが、イチゴの場合はイチゴ「萎黄病(いおうびょう)」と呼ばれます。
さらに、イチゴ「萎凋病」も存在しますが、こちらはバーティシリウム菌によって引き起こされます。同じ「萎凋病」という名前でも原因菌が異なる場合があるのですね。
作物の病名と病原菌の例

【イチゴ萎黄病】
(左:全体、右:クラウン部の導管褐変)

フザリウム属菌による病気の多様性
フザリウム属菌にはいくつか種類があり、それぞれ主に侵す部位が異なります。例えば、Fusarium oxysporum(フザリウム・オキシスポラム)は主に植物の導管を侵す病気として知られています。
導管の病気は、植物の水分や養分の輸送を妨げることから、植物全体が萎れてしまうことが特徴です。
一方で、Fusarium solani(フザリウム・ソラニ)は地際部を侵すことが多いです。他にも、Fusarium avenaceum(フザリウム・アベナセウム)は地上部を侵すことが多く、穂を侵すコムギ赤かび病の一種として知られています。
このように、同じフザリウム属菌でも、感染する部位や症状が異なるため、それぞれに応じた対策が必要です。
【キク萎凋病 Fusarium oxysporum】
(左:全体、中:地際部、右:導管褐変)

【キク フザリウム立枯病 Fusarium solani】
(左:全体、右:地際部)

対策の例
- 被害株は圃場外へ適切に除去する
- 登録のある薬剤等での防除を行う
- 土壌の過湿、過乾燥を避ける
- 太陽熱や土壌くん蒸などの土壌消毒を行う
- 有害センチュウ被害圃場では、有害センチュウ対策も併用する
- 酸性土壌で発生しやすくなるため、土壌pHを中性付近に矯正する
- 抵抗性品種及び台木を利用する
カビの一種による病害といえども、一般的にイメージされるような、ふわふわしたカビが必ずしも見えるわけではありません。パッと見で分からないところに、植物病原菌の強かさを感じます。
また、主に土壌から感染する病害ですが、葉の萎凋(しおれ)や枯れ、茎の褐変など、症状が地上部に現れる場合もよくあります。
さらには、症状がよく似ていても病原菌がフザリウム属菌ではない場合もあります。病原菌が異なると、効果的な対策や薬剤も変わってきますので、悩んだ場合はお近くの普及所等にご相談いただくことをお勧めします。もちろん、弊社でも全国からの診断依頼を承っております。
土壌消毒とは?
連作障害のうち約7割が土壌中の病害虫によって引き起こされます。土壌中に含まれる病害虫、雑草の種子などを死滅させて除去したり、無害化することを土壌消毒といいます。
土壌消毒といっても、熱を利用した物理的土壌消毒、薬剤を利用した化学的土壌消毒、対抗作物を利用した生物的土壌分析など様々な方法があり、効果のある対象も異なります。
今回は、物理的土壌消毒と化学的土壌消毒の代表的な方法や特徴について簡単に紹介します。
同じように“熱”を利用した土壌消毒でも、処理期間や適期などが異なります。各圃場の状況に適した方法で、土壌消毒を行いましょう。
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次回は、【近年増加する土壌病害虫 ③土壌還元消毒】について詳しくご紹介したいと思います。ぜひ、ご覧ください!
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