(イノチオ中央農業研究所 診断分析チーム)
イノチオグループでは1990年より農業生産者の支援として病害虫診断を行っております。現在は年間1,200件前後の診断を実施させて頂いております。
本シリーズでは、実際に寄せられた病害虫診断の事例を交えながら、近年の気象状況や栽培環境・栽培方式の変化などの中で注意すべき病害虫やその対策についてお話させて頂きます。
前回は各種土壌消毒方法の特徴についてご説明しました。今回は特に土壌還元消毒法についてご紹介します。弊社も土壌還元資材としてかんげん丸®を販売しております。
現行の土壌消毒剤が抱える課題と土壌還元消毒の効果
作物の種類によっては、土壌病害虫の発生を抑え、安定的に作物を生産する為に土壌消毒が不可欠な場面が少なからず存在します。
土壌消毒剤として一般的な、土壌くん蒸剤は、概ね時期を選ばず、短期間で様々な病害虫に高い効果が得られます。一方で揮発性が高いことから周辺環境や作業者に対する安全性に注意が必要であったり、土壌の深くに潜む土壌病害虫には効果が得られにくいといった課題があります。
一方、土壌還元消毒法は、作業者、周辺環境への負荷が軽く、最適な圃場条件下で処理を行えば、資材に含まれる水溶性の有効成分が土壌の深層部まで拡散し大きな効果が期待できます。
土壌還元消毒は、どのように作用して効果が現れる?
還元資材である有機物を土壌に施用し、潅水により有効成分を下層部まで浸透させ、被覆により空気の流入を遮断しながら、微生物の活性に必要な地温を維持します。
土壌中の微生物が、還元資材をエサとして分解しながら増殖する際に、土壌中の酸素を消費することにより、土壌が酸欠状態(還元状態) となり、酸素が必要な土壌中の病害虫を死滅させます。
土壌還元化に伴う還元状態で生成する有機酸、二価鉄や二価マンガン等の金属イオンによる抗菌作用などにより土壌病害虫が減少する作用もあると考えられています。
【糖含有珪藻土資材 かんげん丸®を事例に】
土壌還元消毒資材にはどのようなものがある?
主な土壌還元資材には、下記のような資材があります。昔から米ぬかやふすまを使用された事がある方も多いのではないかと思いますが、処理時の臭気の問題や深層部への効果が期待しにくい事もあり、近年では深層部への効果が期待できる新規の土壌還元資材として、低濃度エタノールや糖含有珪藻土等の有機物資材も普及し始めています。

土壌還元消毒の基本的な処理方法の流れ
【圃場全面処理の場合】
処理開始〜次作作付けまで 目安30〜60日
※資材、土質により全面処理だけでなく、畝立て処理が可能です。

① 残渣片付け・耕耘
病害虫発生株は出来るだけ抜根し、土壌中の病害虫密度を下げてください。
② 資材処理・耕耘・圃場均平化
資材の規定量を圃場全体に散布後、耕耘してください。その後土壌を鎮圧することで、出来るだけ均一な潅水を可能にします。

③ 被覆・潅水
圃場を均平化した後、速やかに潅水チューブを設置します。潅水チューブの破れや漏れを確認後、予備潅水で圃場全体を濡らします。その後ビニール被覆をし、被覆周囲の密閉を行ったあと本格潅水を開始します。
潅水量の目安は100〜200L/10aです。
また早期の地温回復の為、潅水後3日間晴天が予想される日を選んで潅水を開始頂く事をお勧めします。
頭上潅水設備を使用する場合は、潅水完了後、24時間以内にただちに被覆を実施してください。


④ 被覆期間
少なくとも3〜4週間以上の被覆期間を確保してください。4週間以上被覆してもらっても大丈夫です。
被覆期間が3週間以下の場合、効果が低下する事例があるので注意してください。
⑤ 被覆除去・乾燥・次作準備
被覆除去後、耕耘が出来る程度に乾燥したら、耕耘し施肥等を行ってください。
還元消毒には除塩効果がある為、初めて実施する場合は、還元消毒後に一度土壌分析を実施し、施肥設計する事をお勧めします。
土壌還元消毒の成功には圃場条件が重要です!
土壌還元消毒の場合、有機資材を土壌投入すれば、必ず全ての圃場で深層部までの高い還元消毒効果が期待できるわけではありません。下記が1つでも該当する圃場は、深層部まで十分な効果が期待できない可能性があります。
<還元消毒で深層部まで十分な効果が期待できない圃場>
- 10a当たり100t〜150t以上の潅水が3日以内に圃場全体に入れられない圃場
- 水を入れた際、ハウスサイドや入口等から漏水してしまう圃場
- 凹凸や傾斜・勾配が強く、ハウス周囲まで均一な潅水が出来ない圃場
- 傾斜が6%以上ある圃場
- 圃場の浅い位置に粘土層や硬盤層などの不透水層がある、透水性の悪い圃場
※目安:①30cm以内に不透水層が存在する。②透水性調査で透水係数1.0E×05(cm/秒)以上
初めて土壌還元消毒を実施する場合は、資材の種類、土質によって、処理量や潅水量、処理方法を調整する必要がありますので、各資材販売店に相談する事をお勧めします。

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今回例として挙げました「かんげん丸®」については、下記のYouTubeにて紹介しております。
https://www.youtube.com/watch?v=JduNoXK3Zjg
※申し訳ございません。かんげん丸®の2025年度販売分は全量完売となっております。

次回は【近年増加している病害虫 トマト編 黄化病、黄化葉巻病について(検査と対策)】についてご紹介したいと思います。ぜひ、ご覧ください!
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