(イノチオ中央農業研究所 診断分析チーム)
イノチオグループでは1990年より農業生産者の支援として病害虫診断を行っております。現在は年間1,200件前後の診断を実施させて頂いております。
本シリーズでは、実際に寄せられた病害虫診断の事例を交えながら、近年の気象状況や栽培環境・栽培方式の変化などの中で注意すべき病害虫やその対策についてお話させて頂きます。
今回は、症状が似ていて見た目だけでは判断が難しい、キャベツの黒斑病と黒斑細菌病について取り上げます。
キャベツの黒斑病と黒斑細菌病
「○○病に見えるから、登録のある農薬を散布しておこう!」と対応したつもりでも、黒斑病は「糸状菌」、黒斑細菌病は「細菌」であり、適切な対処方法が異なります。そのため、農薬散布等を行っても、効果が見られず被害が広がってしまう恐れがあります。
被害を見つけた時に、1つでも見分けるポイントを知っておくことで、どのように対策をしたらいいのか判断することができると思います。症状と実際の被害写真から参考にしてみてください。散布する薬剤は、イノチオ防除チラシもぜひ参考にして頂けたらと思います!
① 黒斑病
病原菌
糸状菌 Alternaria brassicae(アルタナリア)
症状
- 葉に発生し、2〜10mmで淡緑褐色〜淡褐色の円形病斑を形成する
- 褐色の明瞭な同心円の輪紋を生じる
- 胞子(分生子)の発芽適温は15〜20℃であり、低温期に発生が増加する
★ Vol.7のコラムで紹介した黒すす病と黒斑病は症状がよく似ていますが、「輪紋」と「低温期」という点が区別するポイントです!
【葉や茎に黒斑が発生】
【輪紋の様子】
発生の仕組み
- 感染源:種子伝染、空気伝染、被害残渣からの感染
- 秋〜冬にかけて降雨が多いと発生しやすい
- 病原菌は被害残渣中で菌糸や胞子(分生子)の形で生存し、条件が揃うと飛散して空気伝染する
- 菌糸や胞子(分生子)は種子に付着して生存することもある
- 他のアブラナ科野菜に寄生し、伝染源となる
- 排水不良や肥料切れによって発生が助長される
対策
- 消毒済みの種子を、無病の床土に播種して育苗する
- セル苗で子葉への感染を認めたら除去し、早めに薬剤散布を行う
- 育苗時は、潅水で胞子が飛散して被害が拡大するので、底面潅水を検討する
- 圃場での発生時も、早期に被害株の除去・処分を行う
- 圃場の排水性を改善する
- 肥料切れを起こさないように適切な肥培管理を行う
② 黒斑細菌病
病原菌
細菌 Pseudomonas syringae pv. maculicola
または Pseudomonas cannabina pv. alisalensis (シュードモナス)
症状
- 葉や茎を中心に発生し、葉では初め、黄褐色水浸状の小斑点形成する
- 後に拡大・融合し、中央が淡褐色〜黒褐色で周囲が黒〜灰褐色、不整形の病斑を形成する
- 被害が進行すると黄化して枯れる
- 茎では黒色紡錘形、または短線状の病斑を形成
- 被害は表面のみで、結球内部まで及ぶことはあまりない
- 病斑部は発育が阻害されるので、奇形になったり、先端部の枯死を起こす
【結球部での被害】
【斑点が拡大・融合】
【セル苗での被害】
発生の仕組み
- 感染源:種子伝染、土壌伝染、被害残渣からの感染
- 病原細菌は風雨によって飛散し、気孔・水孔や、風雨または害虫の食害痕などの傷口から侵入する
- 真夏と真冬以外は発生し、2〜3月、9月中旬〜10月下旬で温暖で雨が多いと多発する
- 台風などの強風や大雨の後に多発しやすい
- 生育が衰えたり、老化した葉に発生することが多く、感染源となる
- 被害残渣ともに土壌中に残り、発生を繰り返す
- ほとんどのアブラナ科野菜で感染が見られる
対策
- 消毒済みの種子を、無病の床土に播種して育苗する
- 降雨の後などには、細菌病に効果のある薬剤を散布する
- 害虫の食害痕からの侵入を防ぐため、害虫防除を徹底する
- 圃場の排水性を改善し、窒素過多や肥料切れによる樹勢の低下を防ぐ
- 発病株は速やかに除去、処分する
- 密植を避け、風通しを良くする
糸状菌による病気と細菌による病気を見分けるポイント
発生状態によって症状は様々ですが、斑点が拡大・融合していたりすると、黒斑病の症状にも似ていませんか…?
細菌性病害の特徴の1つに、斑点の「周囲が黄化する」という症状があります。全ての細菌性病害が当てはまるわけではありませんが、糸状菌(カビ)による病気と細菌による病気を見分ける1つのポイントにもなります!
似ている症状の病気はまだまだたくさんあります。次作以降の対策を考えるために、正確な病原菌の確認をすることも重要です。お悩みの症状がある場合は、お気軽にご相談ください!
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次回は【どこが違うの?化成肥料と有機肥料 水稲編】についてご紹介したいと思います。ぜひ、ご覧ください!
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