コラム・事例集

公開日時
2018/02/02 00:00:00
閲覧数
883

【農業IT】農業におけるITとロボティックス活用の最前線

この記事の執筆者
凸版印刷株式会社 永野武史/PLANT DATA株式会社 代表取締役CEO 北川寛人

        

今回より、農業におけるデータ活用の最新事例や今後の動向について連載します。
凸版印刷がなぜ農業ITに取組んでいるのか?と思われる方が多いと思います。
グローバルでの人口爆発や既存の慣行農法の弊害による土壌や病害虫、耐性菌などの課題。農業生産の超大規模化や日本においては農業の担い手の急減など、既存の農業の生産体系は持続可能ではありません。次世代の農業生産体系を確立すべく新たな事業として食や農の先端的な取組を行っています。世の中にあるあらゆる情報を印刷という技術でパンフレットや冊子、Web、など生活者の方々に届けた技術、ノウハウを活かし、農業における多様な情報を生産者の方々が活用できる仕組みづくりを進めています。

また、PLANT DATAは愛媛大学発のアグリテックベンチャーです。
コンピューターが社会実装され始めた1970年代に提唱された植物生体情報活用の基礎概念「Speaking Plant Approach(植物の生育状態のデータ化)を起点に栽培管理を合理化するというコンセプトに基づき、愛媛大学が研究、開発している多元的な植物生体計測と活用のためのハード、アルゴリズム、ソフトウェアをサービス化し、生産者の方々に届けています。
私達は、各々の要素技術とシステムを組み合わせ、農業現場におけるデータ活用のインフラ構築をコンソーシアムを組み、進めています。
本連載では、先端のソリューションと、農業現場におけるデータ活用の最前線を紹介していきます。

アグリテックの現状と課題

農業へのデータ活用などITやAIの適用、ロボティックス活用は、「農業ICT」、「精密農業」、「アグリテック」など様々な表現で、メディアで報道され取組が認知されるもの、実農業への実装という点では限定的です。
それは、「植物生理学の知見の不足」、営農におけるデータ化する目的である「現場の課題」や「栽培管理」への活用方法、「現場業務に負担をかけない計測手法や投資対効果の検討」が不足しているためです。

しかしながら、これまでの取組を通じて蓄積されたデータの中には、現象の説明や予測のためのモデル構築に有用なものもあります。また、これまでにない新しいデータの取得や外部環境データなどの精緻化など、実農業への実装にむけてさまざまな取り組みがはじまっています。

植物栽培の合理化は、純光合成の最大化だけではなく、光合成によってできる光合成産物の分配状況の見える化と管理が極めて重要になります。
PLANT DATAの「生育スケルトン」では、花や果実などの子作り(生殖成長)と、茎や葉などの体作り(栄養成長)のバランス(草勢)を見える化し管理しています。
例えばトマトの場合、茎頂から50cm以内の特定部位をメジャーやノギスを使って計測する簡易的な生育調査が世界中の施設園芸で行われています。
データを眺めるだけでは、生育の特徴を瞬時に発見することは難しいため、生育状態の特徴を直観的に把握できるようにする必要があります。
植物体の経時変化を日々把握し、集落で同品種を栽培する他の生産者との比較や目標とする草勢を設定し、実際との乖離を数値評価することで栽培品種の品質の向上にむけた営農活動を可能にします。
計測データの記録方法を簡単にする(たとえば、計測場所で直接、スマートフォンからでデータを送信する)ことで、現場業務へ負担をかけず利用できるように開発を進めています。

先端の網羅的データ計測、分析、活用プロジェクト「ai tomato」

現在、「ai tomato」というプロジェクトを行っています。
「ai tomato」は農水省「人工知能未来農業創造プロジェクト/AIを活用した栽培・労務管理の最適化技術の開発」に採択されたプロジェクトです。
参画機関7社、協力機関を入れると18事業体のコンソーシアムにより、5カ年の計画で進めています。
雇用労働時間を10%以上削減する大目標、管理判断の出力や環境制御システムの自動制御などデータ活用に関し、複数のシナリオと小目標の実現を目指しています。そのために必要なハードウェア、アルゴリズム、ソフトウェアの実装を進めています。

植物を取り巻く要素を可能な限りデータ化し、網羅的にAIで分析することで、管理判断の出力や環境制御システムの自動化や省資源化、生育制御による経営に対し効率的な活用などを目指しています。
 
しかしながら、人による判断や作業をいきなりAIやロボットに代替できるということではありません。はじめは、異常検知によるアラートや判断の選択肢のレコメンド(推奨)など、計測-分析-活用を段階的に省力化し、自動化へと移行させていきます。
実現に向けて、分析対象や分析の目的に応じて、異なるAI技術を適用します。
データの状況に応じて、様々な手法を選択し適用していきます。まずは、これまでにある人の仮説による分析手法を用い、やがて4?5年目には、人による仮説を基にした分析と機械が自ら学習する分析(AI)の合理性を実際のデータを用い検証する予定です。

大規模な栽培設備は、観察のための移動だけでも大変な労力です。また、観察と経験による判断は、思い込みや期待や希望などの影響を受けやすく、また属人化しやすいため大きな課題となりやすいのが現状です。

「ai tomato」が実現する次代の農業生産体系

「ai tomato」は、個々のパーツになっており、必要な機能のみを利用できるように設計しています。営農作業の俗人化を防ぎ、作業工程の見える化、自動計測や制御を通じた農業の産業化の参入障壁の低減の実現を目指しています。

今後は、データが営農だけではなくバリューチェーン(原料調達から消費者に商品が届くまでの一連の企業活動のこと)全体で活用されるようになり、人口動態や気象データ(結果・予測)、消費者ごとの購買情報などを元に「需要予測や販売計画など、加工-物流-流通-再資源化の各工程における合理化」と「質、時、量、値や収穫物の生産履歴などのトレーサビリティについて、消費者に見える化などの寄与ができると考えています。
一部の大規模農場では、既に取組を始めているところもあります。

今回は、営農データ活用に関するプロジェクトとデータによる営農の可視化などについて
紹介いたしました。次回は、データの計測技術や解析(分析)について、「ai tomato」を軸に紹介する予定です。

永野 武史 (ながの たけし)
凸版印刷株式会社 情報コミュニケーション事業本部
ビジネスイノベーション推進本部 フード&アグリ バリューチェーンイノベーション担当

北川 寛人 (きたがわ ひろと)
PLANT DATA株式会社 代表取締役CEO
東京大学農学部で学士は農機自動制御、修士は気候変動対応に従事。PwCCで、ICTシステム導入。 オールアバウトで、Webメディア構築。ライブドアで、Webサービス構築。 2006年に独立し、JICA予算によるカンボジアでの農業可能性調査など農業やICT分野の事業構築に従事。 2013年、エムスクエア・ラボで事業統括。2014年、アグリホールディングス取締役。 2015年、PLANT DATAに参画し、植物生体情報を軸としたグローバルでの食糧生産のプラットフォームビジネスを志向。



当該コンテンツは、担当コンサルタントの分析・調査に基づき作成されております。