コラム・事例集

公開日時
2018/05/25 00:00:00

【営農】野菜の栄養価の低下の問題に着目1-1

この記事の執筆者
一般社団法人日本有機農業普及協会 事務局 中村隆宏

          

わたしたちは現在ほど、野菜の栄養について、くわしく調べられていなかった時代から、野菜の栄養に注目して、積極的においしくいただいてきました。ところが今、野菜に異変が起きています。それは野菜を食べる最大の理由ともいえる野菜の栄養価が、昔よりも、ずいぶん減ってしまっているという問題です。1960年頃の野菜の栄養価と、現在2010年頃の栄養価を比べてみると、現在の野菜は昔の野菜に比べたらビタミンやミネラルなどの栄養価が半分くらいになってしまっています。
原因について、さまざまなことが言われています。①測定の仕方が、今と昔とでは違うとか。②旬がなくなり、旬でないとき、つまりその作物にとって適期でない時期に栽培されているから栄養価が上らないとか。③品種改良によって、現在の品種は、病気に強いが、栄養価は低いとか。さまざまな原因が考えられています。
一般社団法人日本有機農業普及協会は、野菜の栄養価の低下を深刻な問題と受け止め、どうにかして野菜の栄養価を昔のように改善したいと考えています。「栄養価の高い農産物を提供し、食べる人の心身の健康を支えること」それが農業者が社会に対して、もっとも貢献できることだと考えるからです。

野菜の栄養価不足の原因は地力低下にある

日本で有機農業・オーガニックというと「安心・安全」な農産物という認識の方が多いのですが、有機農業は、そもそも地力を増進するために、堆肥や有機物を積極的に活用する農業として生まれてきました。欧米には地力という考えはなく、土壌を持続的に使い続けるためにケアする技術が不十分であったため、土壌の回復力以上に、土壌から収奪してしまい、土壌を痩せさせて、次第に作物が獲れなくなってしまうということを起こしてしました。欧米の方で、はじめて地力の存在に気が付いたのは、イギリス人の農業技師のアルバート・ハワード氏でした。ハワード氏は当時イギリスの植民地であったインドに赴任し、インドの土壌の豊かさに驚き、その豊かさの理由を探求します。そこで発見したのが堆肥を活用し地力を増進させる農業技術だったのです。ハワード氏は1940年、インドで学んだ堆肥を活用して地力を増進させる農業技術を「有機物を用いた農業」という意味で「オーガニック・ファーミング」と命名し、『アグリカルチャー・テスタメント』という著書として発表します。さらに第二次世界大戦で荒廃したイギリス農業の建て直しのために「オーガニック・ファーミング」を推進する団体「英国土壌協会」を設立します。現在のイギリスのオーガニック認証の7割が「英国土壌協会」によるものです。

日本の有機農業も「オーガニック・ファーミング」の訳語なので、その目的は地力の増進なので、農業者主導の取り組みでよかったと思うのですが、枯葉剤を大量に散布したベトナム戦争や四大公害病の発生など、化学物質の拡散による環境汚染が深刻となり、それにより食の安全性が脅かされるという社会情勢を受けて、実際には「安心・安全」な農産物を求める消費者が主導する運動となって今に到ったのだと考えます。日本はもともと堆肥を活用し地力を増進させる農業技術をもっている国でしたが、トラクターなどの農業機械の導入が進み、牛や馬で耕すこともなくなり、日本の一般的な農業は化学肥料を駆使する農業に置き換わってしまいました。これが野菜の栄養価の低下の大きな原因と考えています。
いまさら牛や馬で耕していた昔へ戻ることはできませんが、堆肥を積極的に活用して地力を増大させることはできます。1999年には持続農業推進法ができ、エコファーマー制度がはじまり、化学肥料の窒素成分を減らし堆肥に置き換えようということになり、欧米と同様に、持続性の高い農業生産方式に転換した農業者に対して、税金を直接投入して支援する環境直接支払いもはじまっています。法律的には、日本でも「持続性の高い農業生産方式」は「堆肥を使う農業」または「緑肥を使う農業」となっているのですが、現実には、地力の増進という目的がきちんと理解されず、畜産廃棄物や食品廃棄物をリサイクルして農地に捨てるという消極的な意味にしか理解されていないのではないでしょうか?

中村隆宏 (なかむら たかひろ)
一般社団法人日本有機農業普及協会(JOFA) 事務局




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