(一社) 農業利益創造研究所 理事長 平石 武
はじめに
「農業利益創造研究所」は、農業簿記ソフトのトップメーカーである「ソリマチ株式会社」から、統計利用を承諾してもらった会計ビッグデータを提供してもらい、「データ分析による所得向上の気づき」を情報発信しています。
2021年度の青色申告個人事業の農業簿記データ13,300件が集まりましたので、新しいデータにて統計処理し、2020年度と比較しながら2021年度はどのような経営概況であったかを分析してみたいと思います。農業者の方はご自分の経営と比較しながらご覧ください。
分析対象経営体数の地域別特徴
農業簿記データの2020年度は12,300件、2021年度は13,300件という件数でしたが、地域別に、そして2020年農林業センサスの個人農家数と重ねてグラフにしてみました。
地域別にみると、農林業センサスの日本全体の農業経営体数とほぼ同じ割合になっていることがわかりますが、北海道だけは農業簿記ユーザー数が突出して多くなっており、北海道農家の経営管理意識の高さに驚かされます。
2020年農林業センサスの「青色申告を行っている経営体数」のデータでは、各都道府県の経営体数計の中で正規の簿記による青色申告を行っている経営体数の割合は、都府県平均が18%に対して、北海道は51%という高さです。
2020年度と2021年度の経営概況の比較
2021年度の農業経営はどのような傾向だったのか、2020年度と比較してみたいと思います。
収入金額(農産物販売金額と雑収入)をグラフにしてみると、全国平均はほぼ変わらず、北海道は240万円ほど多く、都府県も変化はありませんでした。しかし、その内訳は農産物の販売金額は全国的に減少し、その減少を雑収入(補助金・交付金等)でカバーしている、ということがわかります。北海道の収入金額が多いのはすべて雑収入の増加分なのです。
以下の表、経営費用と世帯農業所得(控除前農業所得+専従者給与)の比較を見てみると、全国平均では経営費用が39万円増加し、世帯農業所得はマイナスです。つまり雑収入のおかげで増加した収入金額を経営費用の増加で食いつぶして、結局2020年と同じ所得になったということです。これは一般的な企業経営としては成長発展していかないパターンといえます。
営農類型別に分析すると
売上金額が一番大きい作目を元にした営農類型別の集計では、以下のようなグラフになりました。
収入金額は2020年度と比較して、普通作はマイナス35万円、酪農はプラス210万円、それ以外は変化なしです。
特に普通作は農産物販売金額がマイナス160万円とかなり減少しています。農林水産省の「令和3年産米の相対取引価格・数量」によると、令和3年産のお米の平均価格は令和2年産と比べて89%になっていますので、おそらくこの米価下落の影響なのではないかと思われます。
以下の表は経営費用と世帯農業所得の比較です。
どの営農類型も経費が2020年度より増加していることがわかります。世帯農業所得は、普通作はマイナス72万円、酪農がマイナス97万円です。酪農は収入金額が増加しているにもかかわらず所得が減っているというのはなぜでしょうか。
これらの経費の増加は、おそらく農業資材や石油、飼料等の物価高騰によるものかもしれません。これらについては、今後詳しく分析してみたいと思います。
経営管理意識の高い都道府県はどこ
最後に、農業簿記のデータを集計しているからこそ出せる分析を一つ。
青色申告特別控除額は、現在65万、55万、10万と3つあります。通常の複式簿記を行っている場合は55万円ですが、①電子申告する、②電子帳簿保存を行う、のどちらかを行うと65万円控除になり税金を節約できます。65万円控除を行っているということは節税意識が高く、簿記のスキルが高い農家である、と言えると思います。
都道府県別に65万円控除の農家の割合を調べてみると、神奈川県79.2%、福岡県76.8%、愛知県75.6%、でした。これらの県は農家の意識が高いのは勿論ですが、おそらくJAや県の農林水産部の指導が徹底しているのではないかと思われます。
まとめ
2021年度の農業経営は、農産物販売金額は減ったが、雑収入がそれをカバーして収入金額は多少増加した。しかし、経費が増加しており農業所得はほとんど差がなかった。よって、今後の物価高騰には注意が必要ではないか、という経営概要であると思われます。
農業は自然や外部環境に大きく左右されます。コロナ禍という環境変化により2020年度は2019年度と比較して荷造運賃手数料が増加しました。まさにネット通販が増加したためと思われます。
現在は、ウクライナ等の国際的な問題が日本国内の社会に大きく影響していくことが懸念されますので、外部環境を注視しながらしっかりと経営していきましょう。
当該コンテンツは、一般社団法人 農業利益創造研究所の分析に基づき作成されています。
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