(農林中金総合研究所 野場隆汰)
これまで本シリーズでは、農業における自然災害リスク対策の重要性と農業者や地域の農業関係者の連携による災害回復力向上の取組みを解説してきました。
今後、地域のなかで連携体制構築を検討したいと考えている読者の皆様にむけて、事例のポイントを整理し、シリーズのまとめとしたいと思います。
連携内容の明文化
地域内の複数の農業者および農業関係者が参加する連携においては、具体的な取組み内容や構成員の役割などを文書に明記しておくことが大切です。こうした文書は一般的にはBCP(事業継続計画)や防災計画と呼ばれ、いざというときに参照することで迅速に行動できるほか、構成員が変更となる場合の引継ぎにも役立ちます。
本シリーズ内で紹介した事例では、第2回の農業法人同士の相互支援協定、第3回のJAと酪農家による災害対策マニュアル、第5回の産地BCPが、明文化の具体例としてあげられます。
もちろん、自然災害リスクの影響は予測ができないため、最初から完璧なBCPや防災計画の作成はできません。そのことを認識したうえで、実際の被災経験から内容を見直したり、定期的な訓練やミーティングを行うなど、文書の高度化をはかることも同時に重要です。
リスクを“自分ごと”とするための協議の場の設営
連携の構成員が自然災害リスクを“自分ごと”として認識するためには、実際に集まって協議する場を持つことが効果的です。
本シリーズの第5回で紹介した産地BCP策定を目的としたワークショップは、農業者だけでなくJA職員や自治体職員が参加したことで、より具体的に連携の議論が進んでおり、協議の場の重要性を示している取組みといえます。
ワークショップに参加した農業者は、産地BCPだけでなく、個別経営体としてのBCP(農業版BCP)策定にも前向きな姿勢を示し、協議の場が個人の防災意識の高まりにつながったこともポイントです。
しかし、普段は各々で事業活動をしている農業者や農業関係者が、防災をテーマとして同じタイミングに集まることは難しい場合もあります。そこで、日常的に関わりがある集落営農組織やJAの生産部会など、既存のグループを基盤として、連携のあり方を検討することも有効と考えられます。
コーディネーターの重要性
明文化や協議の場など、連携に向けた具体的なプロセスを進めるためには、それらの取組みを促すコーディネーターの存在が必要です。
本シリーズ内で紹介した事例では、農業者自身やJA職員、自治体職員などがこの役割を担いました。地域の実情や構成員の性質にもよりますが、平時から地域農業と関わりがあるJA職員や自治体職員は、コーディネーターの担い手として適役と考えられます。
また、コーディネーターを担う組織にとっても、自らの事業活動が地域農業のサプライチェーン上に位置している場合には、農業者との連携が自組織の災害回復力向上につながることが期待されます。
多層的な連携で地域農業の災害回復力の向上を
本シリーズ内では、“農業者同士”と“農業者と地域の農業関係者”の2パターンの連携事例を紹介しています。

農業者同士では、リスク認識や支援ニーズがある程度共通しているため、人材や資材・機材の相互支援に関する協議を比較的スムーズに進めることができます。
一方、農業者と農業関係者による連携は、お互いのリスクを共有することのハードルは高いものの、農業者同士ではカバーできない大規模かつ広範な自然災害やサプライチェーン上のリスクにも対応できる可能性を有しています。
この両方のメリットをいかすことができるような、多層的な連携が構築されることで、地域農業の災害回復力はさらに向上するのではないでしょうか。
シリーズ『地域農業の災害回復力を高める連携構築』のその他のコラムはこちら
当該コンテンツは、担当コンサルタントの分析・調査に基づき作成されています。
会員登録をすると全ての「コラム・事例種」「基礎知識」「農業一問一答」が無料で読めます。無料会員登録はコチラ!
公開日
