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以前の記事でもお伝えしていますが、地方で農業をするのは悠々自適な暮らしとは程遠いものでした。気候変動や、人口減少、鳥獣害など、農業を取り巻く環境は厳しくなっています。しかし、それでも私は東京に戻ろうとは思いません。いろいろあるけれど、概して見れば、やっぱり好きなことができていると感じているからです。
コロナでピンチの漁師とオンラインショップをはじめる
「まったく売れんくなって、きつか。なんとかならんかね」
新型コロナウイルスの感染が拡大していた2020年。私は子どもの同級生の父親から相談を持ちかけられました。彼は天草で牡蠣を養殖する漁師で、コロナ前は販路のほとんどを市場や飲食店でした。通常なら販路に偏りがあっても困ることはないかもしれません。しかしコロナ禍に市場や飲食店の営業がストップしたせいで、大きく売上が落ちてしまったのです。
そこで私は、個人販売を始めることを提案しました。市場や飲食店に比べると、1回あたりの量や金額は小さくなりますが、当時は巣ごもり需要でオンラインショップの需要が伸びていたときです。私の柑橘類もそれまでと比べると、かなり売れていました。感染拡大の終わりが見通せない中で、個人向けの販売をはじめるなら、早い方がいいという話をしました。
しかし、パソコンが苦手な彼は「一人でできる自信がない」と言います。そこで、まずは期間限定で私のオンラインショップと、産直マルシェでの販売をはじめてみることにしたのです
販路が増えて気持ちの余裕につながった
オンラインで販売をするには、まず商品構成といくらにするのかを考えなければなりません。他の事業者がいくらで販売しているのかを調べ、手取りでいくら必要なのかといったことを聞きながら、商品づくりを進めていきました。同時に私の妻が彼をインタビューし、事業者紹介や商品説明に関するテキストを作成したり、プレスリリースを打ったりしました。
最初は知り合いの購入が中心でしたが、やがて、ぽつぽつと売れはじめます。そこで私のオンラインショップをリニューアルし、共同ショップ「narino marche」を開設することにしたのです。narinoという名前には、私たち「なりの」暮らしを作っていくという思いを込めました。
コロナが5類に移行した後も、彼の牡蠣はコンスタントに売れています。販売額はそれだけで生活できるほどには遠く及ばないものの、販路が増えた安心感もあるのでしょう。彼の子どもが「はじめてみんなで旅行に行った」とうれしそうに話していたところを見ると、家族と余暇を過ごす余裕ができたのかもしれません。
地域を訪れる人を増やしたい 農業で関係人口を増やす
私は柑橘類の販売だけでなく、小さな民宿も営んでいます。コロナ前はAirbnbで外国人旅行客が、コロナ以降は多拠点居住サービスのADDressで域外の日本人が、地域に訪れるようになりました。収穫期は「おてつだび」というサービスを利用して大学生に住み込みで手伝いに来てもらったり、収穫体験を開催したりして外の人を呼び込んでいます。私が天草に住み農業をはじめたことで、年間100人内外の方が地域を訪れるようになったのです。「ポケマルチャレンジアワード2023〜都市と地方をかきまぜる〜」の特別賞受賞は、こうした取り組みを評価いただいたからでした。
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