有機質資材
(1)堆肥の作成と施用法
堆肥の原料となる有機物は、微生物の働きによって分解され腐熟化されます。したがって、堆肥づくりは微生物の活動を活発にすることがポイントで、①温度、②水分、③空気、④含有する炭素と窒素の割合(炭素率=C/N比;表1)の4つの条件が大切です。
とくに、C/N比は有機物の分解と密接な関係があり、C/N比が高い(炭素が多めの)場合は注意が必要です。炭素分が多いと分解のために微生物が活発に増殖しますが、その場合に同時に微生物が必要とする窒素分が不足することになり、結果的に分解が遅くなってしまいます。こういった有機物には、硫安などを施用して窒素分を補足して分解促進する必要があります。

家畜糞のように、C/N比が30以下であれば窒素分が高く、比較的に分解しやすいとされています。ただし、生状態で水分が多く通気性が悪い場合は分解が進まないため、おがくずやモミ殻や裁断わらなどの副資材を添加し、水分の調整と通気性の改善をする必要がありますが、この場合も副資材のC/N比に注意をしながら添加します。
また継続して堆肥を作る場合は、出来上がった堆肥を水分調整材として使うこともあります。さらに通気性をよくするため、送風機で空気を送り込むと腐熟が効率よく進みます。
C/N比が30〜70の稲わらやモミ殻では、分解する微生物のためにC/N比が30〜40まで下がるように速効性の窒素分を補充します。水分は、空気が入り込んで堆肥化がしやすくなるためには60%程度が好適です。
おがくずやバーク(堆肥化していないもの)のようにC/N比が100を大きく越えるものは、窒素の補給があっても腐熟は遅いため、2〜3年野積みして古いものから窒素分を補給しつつ、水分を調整しながら分解させます。ちなみにバーク堆肥には35%以下という基準があり、適度に調整されたものが流通されています。
堆肥の特性は、家畜糞の種類やおがくずなど木質資材の混合の有無によって大きく異なるので、施用する目的によって種類を選ぶ必要があります(表2)。例えば、牛糞堆肥に比べ豚糞や鶏糞堆肥は肥料成分が比較的高いため、肥料としての効果は高いものの物理性の改善効果は低い、また生状態のものは急に窒素の肥効が強くなることがあり施用量には注意が必要、などを考慮して使用します。
一方、木質資材は土壌中での分解に時間がかかるため、腐熟が進んでいても、一度に多量に施用することは避けます。また未熟なものを施用すると、施肥した窒素成分も微生物に取られてしまうので、一時的に窒素不足が起こり(窒素飢餓)、作物が窒素不足になることがあり注意が必要です。表3に堆肥の種類と施用基準の一例を掲載します。

(2)バーク堆肥
バーク堆肥の分解が遅いのは、C/N比が高いだけでなく、樹皮にタンニン酸やフェノール酸、ワックスなど分解しにくい成分を含んでいるからです。なかでも針葉樹由来のバークは広葉樹のものより分解が遅い傾向があります。
バーク堆肥施用により土壌が膨軟化する効果があり、空気や水の通りを良くする働きがあります。土壌の3相(固相、液相、気相)のうち、固相率を低下させて気相率を上げることとなり、重粘な土壌の改善にとくに効果的です。また有機物含量の増加による炭素含量や塩基交換容量(CEC)の改善が期待できます。
ただし前述したとおり、よく腐熟したものを選択して施用することが重要です。施肥窒素が失われてしまわないよう窒素を補充して分解を促進すると安全です。また樹皮特有の成分には作物の生育を阻害するものもあり、十分な腐熟(60℃以上の温度と2〜3週間の発酵期間)により分解させます。
さらに、バーク堆肥は繊維状の植物体を含むために土壌の物理性改善に効果的であるものの、逆に乾燥しやすくなる欠点があり、また激しい乾燥にさらされると水分を含みにくくなります。乾燥しやすい季節や表面施用のみの場合は、適宜潅水やマルチ被覆などにより乾燥しないよう工夫しましょう。

(3)家畜糞尿
前述したように家畜糞尿の特性は、その畜種によって異なります。例えば、養分含有率は、鶏糞で高くて牛糞で低い、鶏糞や豚糞は牛糞に比べリン酸や加里が高めである等です(表4)。さらに、飼料の種類や糞尿の処理方法、季節の変化によっても含有率は変化し、肥効に影響するので成分含量をしっかり把握して使用しましょう。
牛糞は、C/N比が20以上と高めのため、分解は緩やかで肥効も遅いですが、養分含有量が低くどちらかというと土壌の物理性改善に効果を発揮します。
豚糞は、牛糞に比べ養分含量が高く、C/N比は10〜15程度で分解も比較的速く、有機質肥料に近いものとして扱われます。
鶏糞は、もっとも養分含量が高く、肥料として施用されることが多い堆肥で、窒素、リン酸、加里のほかにカルシウムやマグネシウムに富んでいます。堆肥化というより乾燥して乾燥鶏糞として流通されることが多い資材です。
(4)堆肥による減肥の考え方
昔は堆肥を施用した場合でも、堆肥に含まれる肥料成分は考慮せず通常の量を施肥していました。しかしこれを継続した結果、地下に流亡しにくいリン酸や加里が過剰に圃場に蓄積している圃場が多くなりました。これを踏まえ、最近では堆肥に含まれる作物に有効な成分量を施肥量から差し引いて減肥するよう指導がされています。
堆肥を施用した場合の、窒素、リン酸、加里の減肥の考え方の一例を以下に示します。
施用する堆肥「牛糞堆肥A(例)」の成分量を、全窒素0.71、リン酸0.7、加里0.74(=含有成分(%);①)とし、その肥効率(=堆肥の肥料成分が作物に利用される割合(%);②)をそれぞれ、全窒素30%、リン酸100%、加里65%とします。
堆肥に含まれる成分で作物に利用される肥料成分含量(%)は、①×②/100で求められます。
その堆肥を、例えば2,000kg(2t)/10a施用した(堆肥施用量(kg/10a);③)場合は、①×②で求めた肥料成分量(%)に掛け合わせると堆肥由来の有効な成分量が求められ、その量が減肥できることになります(以下の例では約2割減肥)。
全窒素の場合:
①×②=0.71×30/100=0.213%(堆肥中の作物が利用できる肥料成分含量)
0.213/100×③=0.213/100×2,000kg=4.26kg/10a(10aあたりの減肥可能量)
通常の窒素施肥量が20kg/10aとすれば、指し引いて、
20-4.26=15.74kg/10a のみ施肥すればよいことになります(減肥割合21.3%)。
同様に計算すると、リン酸、加里の減肥可能量はそれぞれ、14.2kg/10a、9.6kg/10aとなり、いずれの通常の施肥量が窒素と同じ20kg/10aとすれば、リン酸、加里の減肥割合は、約71%、約48%となります。
結局この例では、リン酸肥料は7割削減、加里肥料は5割削減ができることになります。なお、肥効率が成分で異なるのは土壌中の動態の違いで、特に窒素は失われやすいために利用できる割合を低く設定しています。
このように堆肥を施用した場合には減肥量を計算して、適地適量施肥をこころがけましょう。

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