農業は、天候や季節など日々、毎年、状況が異なるので、管理が難しい、と言う経営者が多い。数値を見ても正解はわからない、管理するのは手間がかかるだけで意味がない、という農業経営者もいる。農業経営において、管理指標は、本当に意味がないことなのだろうか?今回のコラムでは、管理指標を設計し運用管理することで、収益向上を図っている農業経営者の事例をもとに、農業経営における管理指標の重要性を解説する。
管理指標とは何か?
先ず、管理とは何か?を知る必要がある。管理を一言で表現すると、PDCAサイクルを回すことである(Plan:計画、Do:実行、Check:評価、Action:改善)。普段から管理している、と言う人は多いが、きちんと管理している人は少ない。PDCAサイクルの一番の基本となるPlan:計画を疎かにしているケースが多く、サイクルのベースとなる計画が粗いと管理の精度が甘くなり、結果、管理しても意味がない、ということになる。
農業経営における計画とは何か?経営者は、収益計画を立案し、作付計画(作付品目、作付面積、作付タイミング、収量予測)や経営資源投入計画(作業項目、作業量、作業タイミング、投入資源)に展開し、収益最適化(または中期で最大化)のために、計画を調整する。天候や圃場の影響による計画のズレは想定されるが、きちんと計画を立案することが重要となる。計画があれば、Do : 実行の善し悪しを C : 評価し、問題があれば A : 改善することができる。計画がなければ、評価もできず、次の改善につながらない。
次に指標とは何かを考えてみる。管理・改善した結果、どうであったかを図るモノサシとして指標は重要である。管理した結果が見えないと、次の一手が見えない、動機づけにつながらないためである。では、何を管理指標とすべきか?であるが、一番のポイントは、目的は何か?何を管理したいか?を明確にすることである。
管理指標を設定し、収益向上を図る
施設野菜栽培の経営者が収益向上を目的として、管理指標を見直し、粗利益を約2倍まで向上した事例をもとに、管理指標の重要性を考えてみる。
施設野菜栽培で、一番重要なことは、ハウス施設をどの程度有効に活用したか?であり、適切な管理指標は、面積当たり収益性(粗利益÷面積)となる。
面積当たり収益性を向上するためには、施設面積を有効活用して、OUTPUTである売上向上を図りながら、INPUTとなる費用(変動費)低減を図ることが必要となる。
そのため、売上向上を図るための重点展開の管理指標として、単位収量(面積当たり収量)と年間作付回数を設定し、管理することにした。(販売単価は市場の兼ね合いがあるのでサブ指標として管理)
面積当たり収量について、前年度実績と過年度問題点から改善案を考慮して、季節ごとに目標値を設定し、実績を毎月管理して、目標達成度とその要因を記録した。年間作付回数については、これまで経営者の感覚(後工程である包装工程で処理可能な仕事量などを考慮)で作付計画していたものを、月・週単位で最適な作付タイミング・作付量を検討し、検討結果をもとに栽培プロセスごとの仕事量を算出し、ネック経営資源の能力限界まで作付計画することで、収量UPを図った。天候や虫の影響もあり計画との差異は発生したものの、前年度と比較して約1.3倍の収量UPを実現した。(労働投入工数は前年度実績程度)
費用低減を図るため、変動費全体の50%を占める労務費に着目し、重点管理指標として、作付・栽培作業については工程別の面積当工数、収穫・包装作業については収量(出来高)当工数を管理した。これまでは、労務費全体を年度締めで確認する程度だったが、指標設定後は、毎月、圃場ごとに各種指標を確認し、改善した。包装作業については、毎日、管理指標である1人時間当ケース数を確認し、問題点を特定しクイック改善を繰り返し成果を出すことができた。(生産性向上1.6倍)
管理指標は改善活動のベース
1年間、継続して管理指標データが蓄積できたことで、季節別、月別、週別の目標値設定や目標の達成度評価、前年度比較、今後の予測が可能となった。前年の夏は虫が出て、面積当たり収量が低下したので今年の対策は・・・。前週は湿気が増え包装しづらかったので今週は冷蔵庫の湿度管理を・・・、など、前年より、前月より、前週より、前日より、もっと良くするためには?と考え、改善活動を推進することができるようになり、更なる成長が期待される。
管理指標を設定し、管理することで問題点を把握し、改善を推進することができ、また改善した成果を日々確認し、モチベーション向上につなげることが可能になった。管理指標をツールとして活用することで、改善で成長し、成長を喜び、また新たな成長を希求する、良い成長サイクルを構築できた。
今回の活動をとおして、農業経営者は、管理指標の重要性について、3つのポイントを認識したと語ってくれた。
- 経営者の管理指標を現場の管理指標に展開することで、同じ方向性に向かって活動できる
- 管理指標で課題が明確になり、常に改善するマインドが醸成できる
- 管理指標で成果が見えるので、現場管理者や社員の頑張りを褒めることができる
経営成果として粗利益2倍を実現したことだけでなく、経営者自身、現場管理者、現場作業者が、マネジメント意識や改善意識を持って日々活動することの重要性を認識したことが、一番の財産になったと言える。
管理指標は、農業経営における羅針盤と類似した役割を持っており、経営の方向性や経営状況を示す重要な機能を果たしている。ゴールに向かって最適なルートで航行しているのか?を評価するためにも、また従業員に方向性を示し、評価して、モチベーション向上につなげるツールとしても、農業経営に無くてはならない、位置づけと認識すべきである。管理指標を上手に設計・運用することが、今後の農業経営の勝者の条件となってくると考えている。
当該コンテンツは、担当コンサルタントの分析・調査に基づき作成されています。
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