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1.農地法の権利移動の許可制との関係
(1) 農地法の目的
農地法は、基礎知識「農地制度の概要」で述べたように、農地の権利移動の制限(転用を除く。法第3条)、農地転用目的のための権利移動の制限(法第5条)を規定しています。その目的は、農業生産基盤である農地について、農地の効率的利用の促進、優良農地の保全、投機目的・資産保有目的での取得の排除にあります。
(2) 許可制の対象となる行為
法第3条の許可制の対象となる行為は、農地等について、これを転用する目的以外で所有権を移転し、又は使用貸借による権利、賃借権等の権利を設定若しくは移転する法律行為です。この法律行為には、売買、贈与等の私法上の契約に基づく場合のほか、収用、競売などによる場合も全て含まれます。
しかし、相続によって被相続人の権利を相続人が承継するのは、被相続人の死亡という事実によって法律上当然に生ずる効果であり権利の移転でないので、法第3条の許可制の対象ではありません。
法第5条の転用のための農地等の権利移動の許可制の対象となる行為についても法第3条とほぼ同様の取扱いとなります。
ところで、「譲渡」とは、権利、財産、法律上の地位を他人に譲り渡す意味であることから、農地の譲渡(転用目的か否かを問わず)の場合は、既に述べた法第3条及び法第5条の趣旨から、農地法による許可✳が必要です。この許可は農地の譲渡契約(売買、贈与等)等の効力発生要件であるので、注意を要します。農地の相続の場合は許可が不要です。
✳なお、市街化区域内農地の転用目的の譲渡の場合は、あらかじめ関係農業委員会に届出すれば良いとされています。一方、転用目的以外の農地の権利移動については、市街化区域内農地であっても農業委員会の許可を要します。
2.農地の譲渡・相続の場合の手続き
(1) 農地を譲渡する場合の手続(許可申請)
農地を農地目的に利用するために、農地を売却、贈与等をする場合、農業委員会の許可(農地法第3条)を受けなければなりません。
農地を農地以外の目的に利用するために農地を売却等する場合は、関係農業委員会を経由して、都道府県知事等の農地転用の許可(農地法第5条)を受けなければなりません。
申請者は、どちらの許可申請の場合も、原則、権利移転の当事者(共同申請)です。
許可権者は、許可基準に従って許可の判断をします。
法第3条許可にあっては、農地の受け手が農地を取得するためのすべての要件を満たす場合には、許可の対象となります(参照:基礎知識「農地の取得_新規就農」)。
また、法第5条許可にあっては、転用に係る農地の立地条件と譲受人の転用目的(内容)が許可の判断基準(立地基準と一般基準)に照らして適当と認められる場合に許可の対象となります(参照:基礎知識「農地転用のルール」)。
このようなことから、農地の譲渡に当たっては所有権者としても、事前に受け手(譲受人)と協議し、その計画内容を確認するとともに、転用にあっては加えて、当該農地が「立地基準」上の農地区分のいずれに該当するかなどを地元農業委員会に問い合わせしておくことが望ましいです。
(2) 農地相続の場合の手続き(権利取得の届出)等
相続による農地の権利取得については、農地法第3条の許可は要りませんが、遅滞なく(相続等からおおむね10ヶ月以内)農業委員会にその旨を届け出なければなりません(法第3条の3)。
農地の相続について、問題となりやすいのは当該農地の適正かつ効率的な利用の確保に関することです。相続人が遠隔地居住者、非農家などから、自ら耕作の事業の用に利用できない場合などです。
農地法は、農地が特別な財であることから、農地について権利を有する全ての者を対象に、農地の農業上の適正かつ効率的な利用を確保する責務があることを定めています(法第2条の2)。
相続により取得した農地を、自ら耕作の事業に供することが困難の場合には、農地所有者としての責務を果たすため、経営基盤法に基づく市町村作成の農用地利用集積計画による担い手等への利用権設定、又は農地中間管理機構(以下「農地バンク」という。)への賃借などの措置を講じることが望まれています。詳しくは農業委員会に相談してください。
3.農地の譲渡・相続に係る課税
次のような税金が原則、課せられますが、一定の要件を満たす場合には、特例措置が認められています。農地の譲渡・相続に当たっては、課税面でも十分に注意してください。
(1) 農地の譲渡
① 農地を売却した場合
納税者:譲渡者
売渡により生じた「譲渡益」{譲渡収入金額-(取得費+譲渡費用)}に対して
(原則)
所得税(法人税):譲渡益×15% ※
住民税 :譲渡益×5% ※
※短期譲渡所得(取得後5年以内の売却)の場合の税率は、所得税(法人税)については30%、住民税については9%です。
(特別控除) 地域の担い手に農地を売るとメリットがある。
農業委員会のあっせん、農用地利用集積計画などを活用して、農用地区域内の農地を地域の担い手に売った場合には、その譲渡益から一定額(800万円、1500万円、2000万円)が控除(特別控除)されます。このうち、800万の特別控除は、① 勧告による協議、調停又はあっせんにより譲渡した場合、② 農地バンクに譲渡した場合、③ 農用地利用集積計画により譲渡した場合です。1500万円の特別控除は、経営基盤強化法に基づく買入協議により農地バンクに買い入れられた場合、さらに、2000万の特別控除は、経営基盤強化法の特例農用地利用規程に基づき農地バンクに買い入れられた場合です。
② 農地を贈与した場合
納税者:受贈者
贈与税 :課税価格×(10%〜55%)
登録免許税 :固定資産課税台帳価格×2%
不動産取得税:固定資産課税台帳価格×4%
(贈与税の納税猶予制度)後継者へ安心して経営移譲を進められる制度
農業を営む者(贈与者)が、その農業の用に供している農地等を農業後継者(推定相続人の1人)に一括贈与した場合には、農業後継者(受贈者)に課税される贈与税の納税を猶予し、贈与者又は後継者のいずれかが死亡したときに免除される(相続税が課される)制度です。
なお、後継者が農業経営を廃止した場合等には、納税猶予が打ち切り※となりますので注意してください。
※ 贈与税の納税猶予が打ち切りとなる場合
①後継者が農業経営を廃止した場合
②納税猶予の適用対象農地等の売渡し、貸し付け、転用又は耕作の放棄があった場合等
(例外)次の場合等には、猶予が継続されます。
・経営基盤強化法に基づく事業による貸し付け(特定貸し付け)を行った場合
なお、利用権設定等促進事業による貸付けの場合、納税猶予の適用を受けてから10年(貸し付け時に65歳未満である場合は20年)を経過している必要があります。
・疾病等のやむを得ない事情により営農が困難となったため貸し付け(営農困難時貸し付け)を行った場合
(2) 農地の相続
納税者:農地の相続人
相続税 :相続財産額×(10%〜55%)
登録免許税:固定資産課税台帳価格×0.4%
(相続税の納税猶予制度) 意欲ある農業者に農地を円滑に継承される制度
相続等により、①被相続人の農業の用に供されていた農地等、②経営基盤強化法等に基づく特定貸付けが行われていた市街化区域外の農地等、③都市農地貸借円滑化法による認定都市農地貸付等が行われていた生産緑地地区内の農地を取得して、相続人が引き続き農業の用に供していく場合又は特定貸付け若しくは認定都市農地貸付等を行う場合には、その取得した農地等の価格のうち「農業投資価格」(※1)による価額を超える部分に対応する相続税の納税を猶予し、相続人が死亡したとき等(※2)に免除されるという制度です。なお、相続人が農業経営を廃止した場合等には、納税猶予の打ち切り(※3)となりますので注意が必要です。
※1 「農業投資価格」:農地等が恒久的に農業の用に供される土地として自由な取引がされるとした場合に通常成立すると認められる価格として国税局長が決定した価格を言います(例:2021年分東京都の田90万円/10a、畑84万円/10a)。
※2 「等」は次の場合を示す。①相続人が相続税納税猶予を受ける農地等の全てにつき贈与税納税猶予の適用を受ける贈与をした場合、②市街化区域内(生産緑地地区を除く)は、相続人が20年間営農を継続した場合
※3 相続税の納税猶予が打ち切りとなる場合
①相続人が農業経営を廃止した場合
②納税猶予の適用対象農地等の売渡し、貸し付け、転用又は耕作の放棄があった場合
(例外)次の場合等には、猶予が継続されます。
・経営基盤強化法に基づく特定貸し付けを行った場合
・営農困難時貸し付けを行った場合
・都市農地円滑法に基づく認定都市農地貸し付けを行った場合
(生産緑地地区内農地限定)
当該コンテンツは、「一般社団法人 全国農業会議所」の分析に基づき作成されています。